今やYouTuberは小学生がなりたい職業の上位だ。なぜ憧れるのか。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんは「過剰な承認欲求は今の日本の社会的な病だ。背景には、子どもたちの承認欲求を絶えず欠如するようにしておいて、ある目標を達成したら『承認してあげる』というやり方で誘導する教育の問題がある」という――。

※本稿は、内田樹、白井聡『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

vlogを作る少年
写真=iStock.com/supersizer
※写真はイメージです

「有名になれば金がついてくる」発想の蔓延

【白井】すごく言い方が難しいのですが、内田さんや私はいくらか有名なので、有名であることによる面倒くささというものを知っています。それで「有名になっても年収よりも有名税のほうが高くなるから、有名になることはそんなにいいことではないよ」と言ったりするわけです。けれどもそれを聞いた人は「お前たちは特権的な位置にいるからそういうことを言えるんだよ」というふうに反応するでしょう。しかし一つ、確実に言えるのは私にせよ内田さんにせよ、別に有名になりたくて仕事をしてきたわけではないということです。できるだけいい仕事をしたいと思ってやってきた結果としていくらか有名になったというだけの話なんですね。

有名になりたいという願望、あるいは内田さんの言った(※編注:YouTuberへの)嫉妬心は、どう見てもそこが逆転しています。非常に古典的な説教になってしまいますが、努力しないで有名になろうという考え方はやはりおかしいわけです。ただ一方で、若い人たちの間に「こつこつやっていてもどうにもならないよ」という閉塞感が漂っていることは間違いありません。その閉塞の中で「いきなり何かしらの手段で有名になれば、あとは金がついてくる」というような発想が蔓延してきているというのは事実だと思います。

YouTuberという特権的なキャリアパス

【内田】今はYouTuberのように、別にこつこつやらなくても、頭の回転が速くて、しゃべりがうまければ、ものの弾みでいきなり超有名になって、お金がざくざく入ってくるという特権的なキャリアパスが子どもたちの前にぶら下がっています。以前、20代のYouTuberたちと話したことがあって、一人はYouTubeからの収入が月50万円、もう一人は月20万円だと教えてくれました。月収50万円の人の方のYouTubeを何度か見ました。すごく面白いんですけれど、これをコンスタントに配信して、月収50万円を確保するのはたいへんだろうなと思いました。

それでも、スマホ1個あれば、うまくすると、たちまちアイドル的、教祖的有名人になれて、高収入が得られるということになると、コストパフォーマンスとしては素晴らしく効率的なわけです。歌手になるとか俳優になるとかいうキャリアパスよりもはるかに短時間に、努力なしに有名になれる。これは子どもにとっては魅力的だろうなと思います。だから、今は小学生のなりたい職業の上位にYouTuberが入っている。でも、小さいときから最小限の努力で有名になって、莫大な利益を得るという楽なキャリアパスばかり探していると、あまりいいことはないと思います。