必死で原爆投下を正当化してきたアメリカ

『オッペンハイマー』を観た理由を尋ねると、まず返ってきたのは

「第2次世界大戦をテーマにした映画はこれまでいくつも作られてきたが、原爆を中心に据えた映画作品はおそらく初めてだから」
「歴史を扱った作品で、一見自分たちと関係なさそうだが、今でも世界は核の脅威に囲まれているから」

ロシアとウクライナの戦争、中国の東アジアへの圧力、そして北朝鮮の度重なるミサイル発射実験……アメリカの若者はこうした状況に脅威を感じ、核戦争に対する関心を高めていることがうかがえる。

アメリカでは長らく、核兵器や広島・長崎について語られることはあまりなかった。原爆を開発したオッペンハイマー博士がアメリカ出身であるにもかかわらず、その詳細も謎のベールに包まれてきた。

その最大の理由は、一般市民に対して大量殺人兵器を使用した唯一の国である、という否定できない歴史の汚点を抱えているからだろう。

そのため、アメリカは必死で原爆投下を正当化しようとしてきた。映画の中では、日本に原爆を投下するかどうかを議論する場面で「原爆を使うことで戦争が早く終わり、お互いの犠牲者の数が減る」というトルーマン大統領の台詞が出てくる。実際、これがアメリカ人にとって「原爆使用は正しかった」と考える理由となっていた。

「日本に謝罪すべき」と考える若者が半数以上に

しかし、当時の政府資料が明るみになるにつれ、これが政権による世論操作のための根拠のないでっち上げだったという説を信じる人は増え続けている。原爆を落とした本当の理由はソビエトを脅かすためだったという考え方も広まってきており、映画でも熾烈しれつな技術開発競争をしているソビエトに言及するシーンが登場する。

こうした論調の変化に伴い、世論も変わってきている。原爆投下から70年に発表された2015年のピュー研究所の調査では、原爆使用を「正しかった」とするアメリカ人は終戦まもなくの調査では85%だったのが、2015年には56%まで減っている。中でも18歳~29歳の若者は47%と過半数を割っている。

ニューヨークで筆者のインタビューに答えてくれた20代の若者たち
筆者撮影

この割合は減り続け、2020年に調査会社「Statista」による6000人のアメリカ人を対象とした調査では、18~24歳のZ世代の52%が「アメリカは日本に謝罪すべき」と答え、「謝罪すべきでない(原爆使用は正当)」と考える23%を大きく上回った。

これを見ても、若いアメリカ人の間で、原爆は明らかな戦争犯罪であり謝罪すべきという考え方が広がっていることがわかる。

こうした世論の変化の中で生まれた映画が『オッペンハイマー』だったのだ。