単純でインパクトのある映像をなぜ海外報道しないのか

エマニュエル氏のこの行為は、東日本大震災のあと、日本へやってきて、カメラの前でコップの水を飲み干してみせたレディー・ガガを思い起させる。彼女のその姿を見て、アメリカ人は原発事故のあとも日本は安全だと確信した。エマニュエル氏もガガ女史も、NHKよりはるかに日本のことを思っているようだ。

日本側でも、西村康稔経産大臣が、テレビの前で福島産の魚の刺身を食べて、処理水の海洋放出に問題がないことをアピールした。そのあと、テレビカメラが入った官邸の昼食会で、岸田文雄首相、鈴木俊一金融担当相などが福島産の魚介類を使った料理を食べた。

テレビでは複雑なことは伝わらない。このような単純な、インパクトのある映像が、見る人に強く訴えるのだ。ところが、NHKは、中国の非難に対するきわめて効果的なカウンターとなるこのような映像を国際放送で流していない。これまで流したどの国際ニュースも、日本の国益という観点が盛り込まれているようには見えない。

とはいえ、こういったNHKの体質の問題は、お金を出している日本政府がもっと厳しく要求すれば改善する問題かもしれない。なんともならないのは、NHKの国際放送のシステム上の問題だ。この問題が、海外でNHKがまったく見られていないという残念な事実に直結している。

中国発の国際放送のほうが海外に浸透している

2014年の総務省の調査「国際放送の現状」では、NHKの国際放送を視聴した経験がある人は、イギリスでは4.5%、アメリカ(ニューヨーク)では4.6%、フランスでは4.3%だった。「経験がある人」というのは、一生に一回でも見たことがある人という意味で、直近1カ月とか1年で見たことがあるという意味ではない。

これまでの記事でも、NHK総合放送を週に5分以上見ている日本人はおよそ半分しかいないことが明らかになったが、海外ではさらに惨憺たる有様なのだ。

これに対して中国の中央電視台の国際放送の視聴経験者は、イギリスでは16.2%、アメリカでは12.9%、フランス8.5%いる。

※日本放送協会「令和2年度収支予算と事業計画の説明資料

私は海外出張によく行くが、ホテルのテレビの番組表や番組案内にNHKの番組を見たことがない。BBCとCNNは標準だが、最近は中央電視台がそこに入り込んできている。

国際放送において、日本は世界的には信頼度が低い中央電視台にすら水をあけられている。これは国益にかかわる問題だ。というのも、中央電視台は、国営放送だと勘違いされているが、実際は中国共産党が指導・監督するプロパガンダ機関だ。その内容はソフトタッチではあっても中国のプロパガンダだ。今回の処理水の海洋放出をめぐる中国側の非難を見ればあきらかだ。