処理水放出にネガティブな報道が目立つ

たとえば、8月24日の放出直後に放送された「Japan begins releasing treated water from Fukushima Daiichi plant」は、処理水は安全基準をクリアしたものだという東京電力の説明に触れてはいるが、それより中国やフィリピンのネガティブな反応や福島の漁民の風評被害への不安などに重きが置かれている。

これを見た海外の人びとは、処理水の海洋放出には問題はないという日本政府のメッセージではなく、それを非難する中国やフィリピンのメッセージを受け取ってしまうだろう。そして、地元福島の漁民も懸念を持っているとして、ネガティブな印象を強く持ってしまうだろう。

少なくとも、この問題に関する日本政府の見解が、見る人にしっかり伝わっているとはいえない。このニュースの他にも、NHKのレポーターが福島の漁民にインタビューし、彼らの風評被害に対する不安な気持ちを吐露させているニュースもある。

中国が日本政府を非難するため、報道を悪用

案の定、かねてから処理水の海洋放出に反対し、日本政府を猛烈に非難してきた中国は、これを徹底的に利用している。地元漁民ですら不安に思っているではないかというのだ。漁民が恐れているのは風評被害なのだが、このようなニュースの常として、そのような区別は曖昧になり、海洋流出そのものを懸念していると受け止められてしまう。

中国は科学的根拠に基づいて日本政府を非難しているのではなく、プロパガンダとしてやっているのだから、日本政府の主張が基づいている科学的根拠をはっきり示さなければならないのだが、NHKはそういうことはことはやるつもりがないらしい。

たとえば、日本政府は海洋放出に関する中国の非難が科学的ではないと反論したが、それに対して、中国は次のように再反論した。

1.日本側は、トリチウムは希釈・処理されている点を説明する一方で、他の核種については説明していない。

2.日本側はすべての核種をモニタリングしているわけではなく、モニタリング対象となる海洋生物の種類も少ないので、日本側が公表しているモニタリングデータだけでは、ALPS処理水の放出が安全で無害とすることはできない。

3.IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている。