「フリーランスは自営扱いだから労働相談の対象外」

ここでも、「フリーランスは自営扱いだから労基署や労働局による相談の対象外」と言われ、労組を紹介された。その支援で、なんとか会社に対して報酬の未払い分を請求し、2020年1月の通院にもこぎつけることができた。2020年7月、体調不良を押して取引先の会社と男性にセクハラ慰謝料と未払い報酬の支払いを求める訴えを東京地裁に起こしたエイコは、2022年2月の最終意見陳述でこう訴えた。

裁判官の皆様には、フリーランスがいまだに十分には法的に守られていないために「フリーランスに対しては何をしても大丈夫だろう」と思っている人がいること、私も含めてそんな人達に搾取され傷ついているフリーランスが大勢いること、立場が弱い人に対し、性的な行為を受け入れないことへの報復として報酬未払いなどの「経済的嫌がらせ」が行われる実態があることをご理解いただき、どうか公正な判決を書いていただきたいです。

2022年5月25日、東京地裁はそんなエイコの訴えに、勝訴判決で応えた。

「会社は下請けの社員や派遣社員など、直接雇用契約がなくても社内で働いている労働者の安全に、配慮する義務がある」としたこれまでの判例を、フリーランス女性のセクハラ被害にも広げた画期的な判決だった。

会社で性的嫌がらせを受けている
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30代のシングルマザーは子どもの休校補償を受けられず困窮

ライターや「個人事業者」扱いのキャバクラ女性、演劇人などは「フリーランス」に当たる。政府の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年3月26日)で、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義されている働き方だ。

フリーランスは第二次安倍政権の「働き方改革」で推奨されてきた。だが、コロナ禍では、仕事の発注が途絶えても「自営であって労働者ではない」として、生活を支える仕組みがきわめて乏しいことが露わになった。コロナ禍は、そんな経済面での自己責任規範に加え、女性を直撃するもうひとつの自己責任規範を浮かび上がらせた。「フリーランスの育児やセクハラ被害は個人の問題」という規範だ。

2022年4月。30代のシングルマザーで、フリーランスとして演劇関係の裏方の仕事を手掛けてきたチナツ(仮名)は、個人が(子どもの)休校の際の補償を申請できる「新型コロナウイルス感染症対応休業給付金」の利用を諦めかけていた。フリーランスの就業実態に合わない証明書ばかりが求められ、近いと思われるものを何とかようやく集めて送ったら、要件に合わないとして差し戻されてきた。しかも、多くのフリーランスには存在しないような書類を、追加して送るよう求められたからだ。