自営業でも申請できる「給付金」に希望を見いだしたが……

演劇、ライター、ヨガなどのインストラクター、演芸、音楽家といった仕事は、フリーランスで働く人が多い。2020年3月のコロナ禍の第1波のなかで対面制限が始まり、これらの分野の仕事は、ほぼ停止状態になった。小中学校などの一斉休校措置で働けなくなった親のために創設された「休校等助成金」からも、フリーランスは「自営業だから」と除外された。追い詰められたフリーランスたちが結束し、関係業界団体や関係労組を通じて政府に働きかけ、フリーランスが個人として申請できる制度としても、先の「給付金」が設けられた。

「雇用者の半額」という格差に疑問の声も上がったが、こうして登場した支援金は、小学生の子どもを抱えるチナツには貴重な命綱に思えた。第一次緊急事態宣言が出た2020年4月から5月にかけ、チナツが関わるはずだったプロジェクトは感染防止のため立ち消えになり、以後、収入が途絶える期間が増えて貯蓄を取り崩す日々が続いたからだ。

フリーランスのトラブル経験者における取引先からの書面の交付状況
出典=内閣官房日本経済再生総合事務局『フリーランス実態調査結果』令和2年5月

必要書類がフリーランスの実態に合わないものばかり

だが、この時点では申請せずに終わった。まず、「業務委託契約等の締結日は学校休業等の開始日よりも前の日でなくてはいけない」とされたルールが壁になった。

口約束が多い業界で、契約書を交わさない仕事も多い。1カ月や2週間程度の助っ人的な業務応援もあるが、こうした依頼は、休校の最中に急に来ることも多く、子どもの休校で断わらざるを得ない。「休校前の契約」という条件には合わないと思った。

第2波以降は仕事が戻り始めたものの、2022年の第6波ではそれまでにない急激な感染拡大が始まり、感染者は初めて10万人を突破した。子どもの感染の急増に、チナツもついに、この制度を利用しようと決意した。だが、先述のように、書類を差し戻されたばかりか、「業務遂行予定日がわかるシフト表」や「三カ月分の報酬の明細」「発注者が業務の取りやめを承諾したことが確認できる書類」が追加請求された。

フリーランスは取引先の電話1本で拘束期間が決まる働き方が多い。「シフト表」などは見たことがなかった。「三カ月分」と言われても、報酬はプロジェクト単位で一括払いの場合もあり、入金が毎月あるとは限らない。売り上げ台帳なら出せるが、これも要件に合わないと突き返されるかもしれない。業務取りやめも電話1本の通告が多く、仕事を発注してもらう立場である関係から取引先に面倒な書類を要求することは気が引けた。