「感情」に名前をつけると対処できる

布団のなかで心配事が頭に浮かんで、そのことに完全に支配されてしまったように感じると、扁桃へんとう体(「闘うか逃げるか反応(※)」に関与する脳の器官)が過剰に働いてしまうことがあります。

※闘うか逃げるか反応……恐怖や危機的な状況において、危機を回選するために扁桃体が瞬時に引き起こすストレス反応。

キム・ジョーンズ(著)、鹿田昌美(訳)『最新科学が証明した睡眠にいいことベスト211
キム・ジョーンズ(著)、鹿田昌美(訳)『最新科学が証明した睡眠にいいことベスト211』

でも、自分の感情に「ラベル」(=「アイデンティティ」)を与えることで、その感情的な反応を効果的に食い止めることができます。

たとえば「私は怒っている」「私はストレスを感じている」「私は不安を感じている」「私は圧倒されている」というように感情を言語化するのです。

学術誌『Psychological Science』に掲載されたカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究から、ラベルつけによって扁桃体での活動が少なくなり、過剰反応を止める脳の右腹外側前頭前野の活動が多くなることがわかりました。

また、同大学による別の研究では、クモが怖い参加者のうち、不安な感情にラベルをつけるように指示された人は、心臓の鼓動が激しくなるなどの恐怖に反応する生理学的兆候が、最も少なくなりました。

不安な感情が頭に浮かんだら、名前をつけてみてください。感情の激しさが和らぎ、心が鎮まって、寝つきが良くなるかもしれません。

眠れない自分も受け入れる

「指ハブ」という工芸品のおもちゃがありますね。

植物の皮で編んだ筒の口から指を入れて、引っ張ると筒がしまります。抜こうとして強引に引っ張れば引っ張るほど、きつくしまって、指が抜けなくなってしまうのです。

とっさに引っ張ってしまいそうになりますが、反対のことをするとどうなるでしょう? 抵抗するのをやめて、指をリラックスさせ、引っ張る代わりにそっと押す――すると、簡単に罠から抜けることができるのです。

不眠症も指ハブと同じです。

抵抗してもがくと、目覚めている不快感に加えて、怒りや欲求不満やパニックなどの不快な感覚を味わうはめになり、さらに夢の国が遠のいてしまいます。

眠れないことをありのまま受け入れて、じたばたするのはやめましょう。

そうすれば、逆説的ですが、あなたが不眠に勝つ可能性が高くなり、結果的によく眠れるようになります。

近年、患者の睡眠の問題を克服する方法として「不眠症を受け入れること」を奨励する睡眠療法士が、続々と増えています。眠れないことをリラックスして受け入れ、それに抵抗せず、否定的な反応(パニック、心配、怒り、欲求不満)を肯定的な反応に置き換えるのです。

眠れないときは、次のことを思い出しましょう。

眠れないときに思い出すといい5つのこと
①今は目が覚めていたとしても、自分を含めどんな人も眠ることができる。
②誰でもいつか必ず眠くなる。自分も必ずそうなるので、自信を持つ。
③「眠れない」ことを怖がらないで、「どんな人でも眠れる」と自分に言い聞かせる。時間はかかるかもしれないけれど、最終的には必ず眠ることができる。
④たとえ眠れなくても、ベッドで休んでいるだけで、身体が回復して翌日にうまく対処できる。
⑤数時間眠れないだけで大きな害はないと、自分を安心させる。

眠れないことを受け入れると、不眠に伴う不快感の多くが、不眠に抵抗するときの不満と怒りによって引き起こされていることに気がつくでしょう。

言い換えれば、最大の問題は目が覚めていることではありません。目が覚めていることに対する感情的な反応が、不眠を悪化させるのです。

眠らないことに対する否定的な感情が収まるにつれて、ストレス反応のスイッチが切れて、気がつけばいつのまにかすやすや眠っているかもしれません。

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