肝がんの引き金になる肝炎ウイルス

一方、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染すると「慢性ウイルス性肝炎」になることがあり、肝がんの原因になります。これらの肝炎ウイルスは、血液を介して感染します。B型肝炎ウイルスは、出産の際の母子感染、性行為による水平感染が起こることも。感染経路がよくわかっていなかった時代には、輸血や注射針を介した医原性の感染もありましたが、現在ではまずありません。

また、C型肝炎ウイルスに対しての有効なワクチンはないものの、B型肝炎ウイルスに対してはワクチンがあって、日本では2016年から定期接種が始まり、予防が可能になりました。慢性ウイルス性肝炎は、血液検査で診断できます。現在の日本では新たに感染する可能性は低いので、一生に一度だけ検査を受ければほぼ大丈夫です(※3)

日本においては、胃がんと同様に肝がんも減りつつありますが、すでに肝炎ウイルスに感染している人は適切な治療を受けたほうがいいでしょう。慢性B型肝炎に対しては「インターフェロン」といった免疫系を活性化させる治療法、ウイルスの複製を阻害する抗ウイルス薬があります。C型肝炎ウイルスに対しては、数カ月間の内服によって高い確率でウイルスを完全に排除することができる抗ウイルス薬があります。

※3 厚生労働省「肝炎ウイルス検査について

さまざまながんの要因となるHPV

感染ががんの原因となる事例は、まだあります。主に性交渉で感染するHPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんの原因として広く知られていますが、中咽頭がん、肛門がん、膣がん、陰茎がんといったがん、おまけに「尖圭せんけいコンジローマ」という性器にイボのようなブツブツができる疾患の原因にもなります。

子宮頸がんは、がん検診によってある程度予防できますが、それ以外のHPV関連がんには有効な検診はありません。またピロリ菌や慢性ウイルス性肝炎と違って、現在ウイルスに感染している患者さんを治す治療法もありません。

HPVワクチン
写真=iStock.com/Manjurul
※写真はイメージです

でも、HPV感染を防ぐための「HPVワクチン」があります。HPVには多くのタイプがありますが、HPVワクチンは高病原性HPVに有効です。従来のワクチンでも子宮頸がんの50~70%、2020年に承認された9価ワクチンでは90%が予防できると考えられます。ただし、100%ではないので、子宮頸がん検診の併用も必要とされています。

日本ではHPVワクチンの定期接種の対象は女性だけですが、海外では男性も接種対象とする国が増えています。「女性を子宮頸がんから守るため」と説明されることもありますが、それは副次的な目的にすぎず、主な目的は子宮頸がん以外のHPVが引き起こす病気の予防という男性自身の利益のためです。ワクチンはいったん感染してしまったHPVを排除することはできませんので、性的活動が始まる前に接種するのが最も効果的です。