HTLV-1とEBウイルスとがん

さらに感染は、ある種の白血病の原因にもなります。HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、その名の通り、成人T細胞白血病の原因です。HTLV-1の主な感染経路は、母乳を介した母子感染。血液や性行為を介してうつることもありますが、感染力は強くなく発病までに時間がかかるため、成人してからの感染はあまり問題にされていません。

いったんHTLV-1に感染すると治療法はありませんが、母子感染を防ぐ方法ならあります。母親がHTLV-1に感染している場合、母乳を与えず人工乳のみで赤ちゃんを育てるか、母乳をいったん凍らせてウイルスに感染したリンパ球を破壊することで母子感染をかなり減らすことができるのです。日本では、妊婦健診でHTLV-1の抗体検査を無料(公費負担)で受けることができます。

そのほか、唾液を介して感染するため「キス病(kissing disease)」とも呼ばれる伝染性単核症の原因となるEBウイルスは、まれに上咽頭がんや悪性リンパ腫、胃がんをも引き起こします。また、関節リウマチといった自己免疫疾患や慢性活動性EBウイルス感染症とも関連していることがわかっています。ありふれたウイルスなので多くの成人がEBウイルスの潜伏感染を抱えていますが、その大部分は無症状のままで、ごく一部のみが病気へと発展してしまうのです。EBウイルスに対する利用可能なワクチンは今のところなく、潜伏感染に対する有効な治療法もありません。

国際がん研究機関による発がん性の評価

ここまでに出てきた「ピロリ菌」「B型肝炎ウイルス」「C型肝炎ウイルス」「高病原性HPV」「HTLV-1」「EBウイルス」は、さまざまなリスク要因の発がん性を評価している国際がん研究機関(IARC)により、いずれも「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類されています。

一般的に食品添加物や残留農薬の発がん性を気にする方が多いのですが、専門家はそれらを発がんの主要なリスク因子であるとは考えていません。先日、甘味料アスパルテームに発がん性がある可能性があると報道されました。国際がん研究機関はアスパルテームを「グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある」に分類していますが、日常的な摂取量は害を起こす量よりも大幅に低いといえます(※4)

人工甘味料
写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです

ですから、ほかの明確で大きなリスク要因を無視して添加物ばかりを気にしても仕方がないと思います。もちろん、発がんリスクは小さいといっても添加物のたっぷり入った食品ばかり食べるのはあまり健康的とはいえませんので、ほどほどに気をつけましょう。

※4 食品安全委員会 食の安全、を科学する「アスパルテームに関するQ&A