ノリータ・コンドミニアムの販売にも携わったスタインバーグ氏にとって、安藤氏との接触は忘れられない経験となった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「まるで、神と仕事をしているようでした」と語る。「時代を象徴する人物とビジネスをしているのだという感覚が、確かにありました」
建築には通常の高級住宅の2~3倍のコストをかけたという。コンクリートの質を確保し、鉄筋の腐食を予防するため、素材や工法に徹底的にこだわった。ノリータの物件で協業したデベロッパーの担当者は、「現場には、素手でコンクリートをふるいにかける専門家がいました」と語る。コンクリートの品質は、ミキサー車が到着するたびにチェックした。受け入れたミキサー車の数よりも、追い返した数の方が多いほどだったという。
「芸術品」に住むという、そこにしかない価値がある
安藤氏がひとたび図面を引けば、ミニマムな建築美が生まれる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「建築であると同時に、彫像でもある」との声を取り上げているように、住宅を超えた美術品としての側面がセレブたちを魅了している。
もっとも、独特の意匠は好みが分かれる。やっかみ混じりの否定的な声も一部にはあるようだ。ニューヨーク・ポスト紙の芸能部門であるページ・シックスは、ビヨンセ夫妻が購入した住宅について、「からっぽのコストコ配送センター」だと揶揄する意見を取り上げている。批判がまるで的外れというわけではなく、住居にはぬくもりがほしいという声には一理あるようにも感じられる。
それでも、まるで美術館のようなあか抜けた邸宅に魅了される著名人は絶えない。アート作品のなかで暮らす体験は、安藤氏による建築がもたらす特別な価値のひとつだ。
セレブたちは安藤氏による邸宅で暮らすことでステータスを上げ、安藤氏としても評判をいっそう確固たるものにする好循環が生じている。安藤氏による建築はアメリカでもブランドとして認知され、象徴的なスタイルと確かな品質で評判を確立しているようだ。