雨に打たれても代理人に会いに行く…デベロッパーの苦労

安藤氏は、大口の依頼であれば何でも受けるわけではない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、クライアントを選ぶ巨匠であると紹介している。クライアントにオーラを感じることが必要であり、たとえ10億ドル出されても仕事を受けるわけではない、と同紙は述べる。

反面、ひとたび依頼を受けたならば、細部までこだわった設計を手掛ける。図面を引くことで終わりとせず、造園から家具のデザインに至るまで積極的に携わることも珍しくない。内装や家具の変更に許可が必要なスタイルは、ある意味では施主泣かせだ。だが、それでもぜひ設計を一任したいというデベロッパーは絶えない。

デベロッパーは契約を取り付けようと奔走している。ニューヨーク・タイムズ紙が2015年に報じた、ニューヨーク中心街の高級共同住宅「ノリータ・コンドミニアム」の例を見てみよう。

https://www.152elizabethst.com/residencesより
ニューヨーク市中心街にある「152 エリザベス」のウェブページ(https://www.152elizabethst.com/residences

ファッショナブルなノリータ地区やローワー・イースト・サイド地区にも近い建設予定地を一目見た不動産開発会社のアミット・クラーナCEOは、「安藤さんをニューヨークに呼ぶチャンスだと感じた」という。だが、豪邸や公共建築の設計で知られる安藤氏が、たった7戸の共同住宅を承諾してくれる保証はない。

クラーナ氏は安藤氏の代理人とニューヨークで会うため、心待ちにしていたマドリードへの旅行を途中で切り上げた。空港からスーツケースを抱えたまま、雨に打たれ、市内のレストランへ直行したという。若き日にプロボクサーとして活躍した安藤氏の心をつかもうと、モハメド・アリの本を代理人に託した。

こうした苦労が実り、ついにクラーナ氏が日本を訪れて直接対面した際、安藤氏はその場で建築案のスケッチを描いたという。

「まるで神との協業」ニューヨークの開発業者が敬意を表した

安藤氏が手掛けるコンドミニアムとあって、ノリータの物件は海外で大きな話題となった。住宅販売請負会社のレオナルド・スタインバーグ社長は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、バカンスで訪れたイタリアの高級リゾート地・カプリ島での体験を明かしている。ホテルのプールサイドでくつろいでいると、「突然、ブール全体が安藤氏と彼の魔法の話で持ちきりになった」という。