「良質な糖質であるお米」は、体にも心にも効く

食物繊維については、多くの誤解があります。そもそも「繊維」というのは「糖」がつながったもので、腸管の酵素、酸などで分解できない物質です。この繊維は大腸まで届いて腸内細菌で分解されると、栄養素となります。

糖というと、すぐに砂糖を思い浮かべるかも知れませんが、砂糖(主成分はショ糖)も多くの糖のうちの一種にすぎず、ブドウ糖と果糖がつながったもので「二糖類」と呼ばれます。

ブドウ糖、果糖、ガラクトースなどの単糖が10個以上結合して長い糖の鎖ができたものを「多糖類」と呼びます。デンプンやセルロースなどです(また、糖鎖がタンパク質や脂質に結合したものが「複合糖類」です)。

さて2、3個から10個ほどの単糖がついたものが「オリゴ糖」(少糖類)です。果糖から始まるオリゴ糖をフラクト・オリゴ糖(FOS)、ガラクトースから始まる糖をガラクト・オリゴ糖(GOS)といいます。

これらはすべて食物繊維が分解されてできるものですが、重要なサイコバイオティクスの可能性もあるのです。

最近の研究で、GOSとかFOSを与えたマウスは不安になることが少なく、認知機能が増し、ストレス反応も減ることがわかってきました。

腸内細菌は乳糖をほかの二糖類に結合させて、GOSを作ります。GOSを作る腸内細菌が、ビフィズス菌と呼ばれるものです。

そして、GOSやFOSを使った研究が、盛んに行なわれるようになりました。

2013年のミシガン大学の研究では、45人の肥満者にGOSを与えたところ、腸内細菌を増やし、腸の炎症を軽減したということです。

2015年のオックスフォード大学の研究では、GOSもFOSもストレスを軽減し、不安を減らしました。その程度はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のような抗うつ剤と同じ程度だったということです。

これらの結果は、腸内細菌によって作られるGOSが、そのまま腸内細菌を活性化させる基(プレバイオティクス)ともなり、これが抗うつ薬と同じくらい不安を減らす作用があることを意味します。しかも薬のような副作用もほとんどありません。

お米などの穀物に代表される高繊維食は、まさにGOSの材料となる、自然のプレバイオティクスです。

特に多糖類を含む繊維を腸内細菌は好むので、良質な糖分であるお米は、サプリメントなどよりもずっと、体にも心にも効くものだと知っておいてください。玄米なら、糖質制限として控える必要などまったくないと私は思っています。

米粒
写真=iStock.com/ASKA
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ピクルス摂取で有益な腸内細菌を増やす

次に、発酵食について見てみましょう。

食料保存方法として乾燥や燻製と並び多く用いられるのが、「発酵」です。

発酵食品を食べると、いい腸内細菌が増えます。それがわかっているから、冷蔵庫が普及し、わざわざ食べ物を発酵させて保存しなくてもよくなったにもかかわらず、人々は伝統の発酵食を捨てていません(おいしいから、ということもありますね)。

私はアメリカにいたときも、だいこん、きゅうり、はくさいなどを瓶に詰め、少しの砂糖と醤油、みりんを加えて蓋をし、数カ月漬けてから食べていました。

いわゆるピクルスですが、こうして食べると有害微生物を殺し、ラクトバチルスのような有益な腸内細菌を増やします。

世界中、おそらくすべての民族には、独自の発酵法を用いた伝統的料理があるはずです。日本の味噌、醤油、納豆などはお馴染みですね。意外にも、チョコレートやコーヒーも発酵食品の一種です。キャベツを発酵したものがザワークラウトで、キムチも発酵食品です。

これらの発酵食品には、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンKなどの栄養素を作りだす細菌が豊富に含まれています。特にザワークラウトには、善玉菌の代表であるラクトバチルス菌が多く含まれています。

19世紀の科学者、ルイ・パスツールは、生きている微生物が発酵の主、すなわち発酵を促す源だと示しました。また、小麦は3万年も前からパンとして食べられていましたが、当時は発酵させることなく焼いていたため、クラッカーのように固く食べにくいものでした。

これがパスツールの発見により、イースト菌を用いた発酵技術につながり、現在のように、ふんわりとしたやわらかいパンができたのです。