ところが、人生を効率化・最適化するために情報を集めることが、かえって良くない選択につながりやすいように、生産性を高めるためにマルチタスクを行うことは、かえって生産性を損なう原因となります。
そもそも人間の脳は、マルチタスクには向いていません。
フランス国立衛生医学研究所のシャロンとケクランは、シングルタスクのときとマルチタスクのときに、脳がどのように働くのかを実験した結果、「シングルタスクでは、前頭葉にある左右の内側前頭皮質が共同で働き、マルチタスクでは、判断力や理性などを司る前頭前野によって複数のタスクが調整され、左右の内側前頭皮質が分割して働く」ことを確認し、「人間の脳が同時に推進できるタスクは2つが限界である」と科学誌『Science』で報告しています。
判断力や集中力が落ち、心身の不調が表れやすくなる
スタンフォード大学の神経科学者であるオフィールらによると、私たちが「2つのタスクを同時に行っている」とき、実際には、脳が猛スピードで複数のタスクを連続的に切り替えているだけだそうです。
あるタスクを行いつつ、別のタスクを行うとき、脳は一度停止し、情報を再編成し、新しいタスクや思考のために回路を切り替えることを余儀なくされるため、結局は時間がかかり、疲れてしまうのです。
マルチタスクによって脳が疲れると、前頭前野の機能が低下し、物忘れによるミスが起こりやすくなったり、判断力や集中力が落ちたり、自律神経のバランスが乱れて、心身の不調が表れやすくなったりします。
また、マルチタスクは短期記憶への情報流入を妨げるともいわれています。短期記憶に入らないデータは、長期記憶に転送されることもありません。
マルチタスクで得られるのは「まやかし」の満足感だけ
オハイオ州立大学のワンとチェルネフによる、19人の学生を対象に4週間にわたって行った調査では、マルチタスクは、一時的に「まやかし」の満足感を与えてくれるものの、パフォーマンスが落ちることを明らかにしました。
マルチタスクによって、短期的に効率や集中力が上がったように感じることはあるかもしれませんが、一方で、マルチタスクを行うと、脳内でストレスホルモンであるコルチゾールが増加することがわかっています。
コルチゾールは、脳内の記憶を司る部位にダメージを与えるため、マルチタスクをし続けると、長期的には脳の機能の衰えや、脳細胞の損傷を招き、注意力が低下したり、うつ病のリスクが増大したり、認知症のような症状が引き起こされたりするおそれがあるともいわれています。