実はその点も、華僑に学んでいるところが大きいのです。「華僑は人間関係を重視する」と言いましたが、より具体的に言えば「メンツ」を重視します。依頼してくれる、相談してくれるというのは「相手から期待されている」ということです。

期待されているのであれば、それに応えなければいけない。であれば「ちゃんとした人を紹介しなければ」と、考えるわけです。

だからお金という見返りを求めない

日本国内で普及しているマッチングビジネスのようにダイレクトにやりとりされるお金だけで考えないようにする、それが長い目で見て資本主義的な価値を生んでいく、ということもあるのです。

実際、丁寧に人をつないでいったことが回り回って、大学当時激論した中国人とのビジネスにつながったこともあります。起業して行っていた中国企業向けの日本進出支援サービスに、VRメーカーの東京ゲームショー出展案件の話が回ってきたのです。一つひとつを真剣にやっていくと、そういうことも起き得ます。

握手を交わす男性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

現在、私は和僑会の一線からは離れ、一般企業の営業職をしています。実はここでも、和僑会で得た経験が生きています。プロデューサー的な動きと営業の仕事には、かなり重なるところがあると思うのです。

コロナ以降、営業もオンラインで行うことが多くなりました。華僑の人たちも、コロナ以前から、WeChatとよばれるアプリなどを用いてオンライン商談を行っていました。

ただ、オンラインでは常に1人しか話すことができません。淡々と議題に沿って進行し無駄が排除されていくので、当然ながら良い側面もありますが、オンラインは画面上でのやりとりなので、自分が思っているほど多くの情報量が相手に伝わっていないことが多いものです。

オンライン会議が日本社会に広く浸透する一方、リアル面談の価値がより高まっていると私は感じています。コロナによって、ここ3年ほど雑談が自然にできる環境が世界から大幅に減ったこともあり、今後は改めて人間らしいコミュニケーションが再度評価されていくと思っています。

オンラインよりリアル、組織より個人

イノベーションという概念には、「技術革新」という意味に加えて、人と人との「掛け合わせ」という側面もあります。単なるビジネスライクなつながりよりも、個人の間のウェットな関係から「掛け合わせ」の妙味が生まれます。

そのきっかけを生み出すのが、近年ビジネス書などでも重要性が周知されはじめた「雑談」と「聞く力」です。私は営業の場面では「○○社の永野さん」ではなく、まず「永野さん」という一人の人間、つまり「自己人」として相手に認識してもらえるようになることを心がけています。

もちろん営業資料は持っていきますが、自分が喋るよりもまず場の雰囲気を観察し、相手に興味を持って話を聞きはじめます。世の中で起こっていることの話をしつつ、「こうですよね」「ああですよね」と、言葉のキャッチボールをするのです。