そうした傾向が変わり始めたのが2010年前後でした。21世紀に入ってから内需がはっきりと鈍るなか、個人事業主や中小企業が海外進出を検討、または実行しはじめたのです。彼らの多くが、骨を埋める覚悟で移住してきます。

そのため、すでに移住している日本人を含め、現地の人と長い付き合いをしたいと考えるわけです。そうして現地日本人どうしのつながりが自然発生的に生まれ、和僑会へと発展しました。

2019年に行われた第9回和僑アジア大会のバナー前にて
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2019年に行われた第9回和僑アジア大会のバナー前にて。当大会には東京都日中友好協会も協賛

付言しておくと、日本人が中国や東南アジアでビジネスをはじめる場合、先進国で確立されたビジネスモデルを途上国に持っていく「タイムマシン経営」という手法が有効です。先進国の日本人が、他の先進国でビジネスを始めても成功率はそれほど高くありません。しかし「先進国のモデルを途上国でやってみる」という手法であれば、成功率を高めることができます。

動き出した「和僑会」、日本企業のビジネスチャンスに

「誰でもできることをやる」というと聞こえは悪いかもしれません。しかし実際には「やってみよう!」という人は多くありませんし、現地に移住してそれをやりきろうとする和僑の方々の行動力は驚くべきもので、さらに結果も出しているとなれば圧倒的に素晴らしいことです。

今後は中国や東南アジアに加えて、アフリカでもタイムマシン経営の有効性が増していくでしょう(編注:アフリカ市場の現在についてはジェトロ・ナイロビ前事務所長の西川壮太郎氏の記事(第2回)をご参照ください)。

また香港やシンガポールは市場が成熟しているので、製品の種類にはよるものの、付加価値の高い日本の製品・サービスは優位性を持つと考えられます。今後はこの2地域以外にもベトナム、タイなどアジア各国がさらに経済発展していくと、生活者の消費行動が変化していくはずです。これは日本企業にとって大きなビジネスチャンスになり得ます。

中心のない「分散型」コミュニティ

和僑会は現在、深圳、東莞、ヤンゴン、ホーチミンなどにもあります。特徴的なのは、「○○支部」という呼び方をしないことです。

和僑会には、一般的な日本人がイメージする「組織」とは少し違って「中心」がありません。一見中心のようにも見える東京和僑会は、あくまで世界中に散らばっている和僑の人たちをつなぐために便宜的に存在しているだけです。ビジネスマッチングを積極的におこなうわけではなく、あくまでも「つながる場」なのです。

沖縄には「ゆいまーる」という地理的にも心理的にも近しい人どうしの助け合いコミュニティがあります。華僑のあいだでも、近くに住む人どうしでお金を融通し合う文化が存在します。和僑会もそれらとよく似ています。