世界各地に中華街があるのはなぜか。東京和僑会元事務局長の永野剛さんは「17世紀の末から、中国の人たちは東南アジアなどに進出し、各地に独自のネットワークを築いてきた。今では5000万人の『華僑』と呼ばれる人々が、各地に根付きビジネスを成功させている。日本人の海外進出を成功させるヒントは、華僑の人たちにある」という――。

※本稿は、研究イノベーション学会プロデュース研究分科、NPO法人ZESDA、久野美和子、原山優子、桜庭大輔『新版 プロデューサーシップのすすめ』(紫洲書院)の一部を再編集したものです。

横浜中華街
写真=iStock.com/ti1993
※写真はイメージです

日本人の海外ビジネスを支える「若き営業マン」

アメリカ・ロサンゼルスには、「リトル・トーキョー」と呼ばれる日本人街があります。ここは19世紀から始まった日本人の北米移住の結果として形成された街です。また、これよりはるか以前から、アジアを中心とする各地に移り住んだ日本人は、大小さまざまな「日本人町」を形成し、現地に根づいたビジネスを展開してきました。

一方で日本国内にも、横浜や神戸などの中華街など、外国から持ち込まれた文化が花開いている土地がいくつもあります。移住先での「横のつながり」をベースに、新たな経済圏を作り出している彼らのコミュニティには、プロデュースのノウハウが隠されているかもしれません。

私は中国の西北大学留学後に起業し、その間「和僑会」という組織の立ち上げから関わって、事務局長を4年ほど務めました。現在は日中友好を深めるNPOで活動しつつ、平日昼間は一般企業で営業マンとして働いています。本稿では私が携わってきた和僑会の取り組みを通じて、「海外ビジネスのプロデュース」を考えてみたいと思います。

中国人の海外ネットワークの凄み

「和僑」と言われても耳馴染みがないかもしれませんが、「華僑」という言葉なら知っている人が多いかと思います。華僑とは、世界各国に根付いてビジネスや生業を行っている中国人たちのことです。

華僑の始まりは17世紀の明代末、中国南東部の華南地域(現在の福建省、広東省、海南省など。香港、マカオなども含む)だと言われています。

華南の中国人たちは東南アジアをはじめ世界中に進出し、独自のネットワークを築いて各地に中華街(チャイナタウン)を形成していきました。19世紀半ばのアヘン戦争で香港がイギリスの植民地支配下に置かれるとそこが国際交易の中心地として発展していき、華僑の海外進出はますます活発化しました。現在は中国国外に5千万人もの華僑がいるとされます。

実はこうした在外ネットワークは中国にかぎらず他の国でも存在しており、シンガポールは「星僑」、ベトナムは「越僑」、韓国は「韓僑」、インドであれば「印僑」という呼び名があります。