定年後に屈辱感や重圧を感じる男性たち
定年後の再雇用で、管理職に出世して上司となったかつての部下や、役員まで上り詰めた同期に蔑まれる、元部長の工藤さんは、かつては「勝ち組だったのに……」と憤り、会社という組織において「権力」を失うことの屈辱感や、定年後も働き続けなければならないという社会的重圧を受ける苦悩を打ち明けた。
改めて、日本では2021年4月から、70歳までの継続雇用制度の導入などが雇用主の努力義務となった。労働者が希望すれば、70歳まで働ける社会へと高年齢者雇用の環境整備が進んでいる。現に厚生労働省の22年「高年齢者の雇用状況等報告」によると、66歳以上まで働ける制度のある企業は40.7%(対前年度比2.4ポイント増)を占め、70歳以上まで働ける制度のある企業も39.1%(同2.5ポイント増)と、いずれも増加している。
努力義務の70歳までの高年齢者就業確保措置については、22年6月の調査時点で実施済みの企業は27.9%(同2.3ポイント増)だった。継続雇用制度には再雇用と勤務延長があるが、大半はいったん退職した後、雇用契約を結ぶ再雇用(多くは1年ごとの雇用契約)となっている。
65〜69歳の男性の7割以上が非正規雇用
雇用主側は生産性向上が目下の課題である状況下での定年後の従業員の有効活用には頭を抱えるケースが多く、労働者側も継続雇用によって定年前と比べて仕事の質が下がって賃金など待遇も悪化するうえ、長年培ってきた経験や能力を十分に生かせないことで、働く意欲が低下するなどの問題に直面している場合が少なくないのが実情だ。
労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(20年公表)では、働く60〜64歳男性の雇用形態は、非正規雇用労働者が58.1%と、「正社員」(37.1%)の1.5倍の高い割合だった(非正規の内訳は、「パート・アルバイト」13.7%、「嘱託」24.0%、「契約社員」18.2%、「派遣労働者」2.2%)。
年齢が65〜69歳に上がると、非正規(76.6%)が正社員(18.8%)の4倍にも上る。