妻からのDVに苦しむ男性がいる。近畿大学の奥田祥子教授は「私が取材した30代の男性は、出世競争に敗れたことがきっかけで妻からDVを受けるようになった。妻からは『負け組』と呼ばれ、花瓶を投げつけられることもあった」という――。(第1回)

※本稿は、奥田祥子『シン・男がつらいよ』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

顔を覆って下を向いている男性
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「結婚するなら事務職がいい」と語る30代の男性

働く女性の育休取得率が今よりも20ポイント以上低い64.0%にとどまるなか、女性が育児などと両立して働くことを支持する世論が高まり始め、企業にも両立支援策の整備が求められていた2002年、大手ゼネコンに勤務する当時32歳で独身だった山田康平やまだこうへいさん(仮名)は、理想の結婚相手について、開口一番、こう持論を展開した。

「家事や育児など家庭での役割に専念してもらって、絶対に仕事はしてほしくないんです。だから、結婚するまでの仕事はバリバリ働いているよりは、事務職のほうがいいかなと。男は職場の厳しい競争を勝ち抜くために毎日、必死に頑張っているわけですから、妻になる人にはしっかりと家庭を守り、夫が家に帰ったら安らげるようにしてもらいたいんですよ。男はみんな本音では、妻には家庭に入ってもらいたいと思っているもんですよ」

職場など公的なシーンでは、「男は仕事、女は家庭」という固定的な性別役割分担意識を明らかにする人は皆無な時代をようやく迎え、インタビューでも最初から山田さんのように本心を歯に衣着せぬ物言いで話す男性はほとんどいなかっただけに、彼の今後の生き方を追い続けたいという取材者としての血が騒いだのを昨日のことのように思い出す。

そして3年後の2005年、山田さんは35歳の時に2歳年下の元メーカー勤務の女性と結婚する。専業主婦として家庭を守ってくれる女性を射止めたが、当初彼が話していた事務職ではなく、大学卒業後、大手メーカーに総合職採用で勤めていた女性だった。