夫婦関係も改善し、事業本部長に昇進

妻とは、子どもたちを連れて毎週末、自宅まで会いに行っているらしい。「そろそろ同居を再開しようかと、妻と話し合っているんですが……正直、自分に夫として、男として自信がないために、ためらってしまうんです。出世競争に敗れた私はもう、妻が結婚時に理想としていた夫ではありませんからね。果たして受け入れてもらえるのかと……」

2018年、約2年半の別居を経て、山田さん家族は再び一緒に暮らすことになった。別居が始まった頃からずっと妻に寄り添ってくれていた義母を加え、5人での生活がスタートしたのだ。同居再開当初のインタビューでは「元のさやに収まるまでには時間がかかるかもしれません」と不安も口にしていたが、「子どもたちが元気に成長していく姿が、2人の絶好の話題となって、関係の改善を後押ししてくれています」と話し、次第に夫婦の自然な会話が増え、再び心を通わせていく様子が伝わってきた。

53歳になった山田さんは現在の会社での在籍も10年を超え、地道に実績を上げて1年前に事業本部長に昇進した。妻は下の子どもが中学校に進学したのを機に、2年前から契約社員として働いているという。

それでも妻の存在が自分を支えてくれた

「妻は今、生き生きとしています。そもそも、家庭に閉じ込めておくべき女性ではなかったのかもしれませんね」と、23年春のインタビューで笑みを浮かべて開口一番、口にしたのは妻の話だった。

奥田祥子『シン・男がつらいよ』(朝日新書)
奥田祥子『シン・男がつらいよ』(朝日新書)

「私はあと2年で役定(役職定年)で、それが職場のパワーゲームの実質的なゴールとなりますが、元の会社に戻れないことがわかってかなりへこんでからも、何とかふんばることができたのは……やはりいろんな意味で、妻の存在が大きかったと思います。一度は妻を後悔させ、私に暴力を振るわせてしまうまで関係が悪化しましたが……一日も早く元の夫婦、家族に戻りたいという強い思いがあったからこそ、ここまで、頑張れ、たん、です……」

落ち着いて話していたように見えたが、感極まったようで言葉に詰まる。そして、いったん顔を上げて深く息をしてから、こう続けた。

「今振り返ると、妻に、出世の階段を勢いよく上がっていく格好いい男の姿を見せたくて、妻の顔色ばかりうかがっていたなと思うんです。ある意味、妻にコントロールされていたんでしょうね。まだこれからの人生、長いですから、少しずつ、ゆっくりと、夫婦関係を再生していければと思っています」

一言ひと言噛みしめるように語る表情に、かつてのような気負いは見られなかった。