再雇用されても短期間で辞めるケースが相次いでいた

質問しながら、人事部長の工藤さんも「需要が低い」と捉えられかねない失礼なことを言ってしまったことに気づく。とほぼ同じタイミングで、彼はこう切り返してきた。

「それは大丈夫ですよ。あっ、奥田さん、私のことはお気遣い無用です。技術職のほか、経営企画、営業などのほうが有利かもしれませんが、人事、総務などを経験してきた者だって希望すれば、働けるようになるんですから。効果的な人材活用策を考えるのが、われわれ人事の役目です。それに……自社での継続雇用にこだわらなければ、バックオフィス部門のほうが一企業の色に染まらず、幅広く培ってきた能力を生かせるという面では、転職も可能だと思います。管理職経験者なら、なおさらプラスだと思いますよ」

長年の人事・労務経験で大勢の社員を見て、人間洞察力を磨いてきたからなのだろうか。こちらの内心を読み取る力に感心しつつも、語りの最後で彼が見せた貼りついたような笑顔が気になったのを鮮明に覚えている。

その後もさらに、人事部長として定年後の継続雇用のスムーズで効果的な推進に力を注いだ。工藤さんが勤める会社では、継続雇用はいったん定年退職した後、再び雇用される再雇用制度を採用し、嘱託社員として週3日の勤務を基本と定めていた。ただ、いずれの部署でも希望者が少ないうえに、再雇用後、1年単位の有期雇用契約の期間満了を待たずに半年など短期間で辞めていくケースが相次いでいた。

再雇用に失望するも転職活動は難航

定年後の人材の有効活用を一定期間実践したうえで、検証するまでに至らないことに対し、取材でもどかしさや焦りをあらわにする機会が次第に増えていく。そうして、55歳で役職定年を迎えて人事部から労務部に異動する。実はこの時になって初めて、数年前から(初取材の時にはすでに)定年後の自らの身の処し方に悩んでいたことを知る。

役職を解かれてから数カ月過ぎた2015年のインタビューでは、「残念ながら、再雇用では自分の能力を生かせず、会社の役に立てない」と言葉少なに語り、転職を目指し、複数の人材紹介サービスに登録したことを教えてくれた。それから6年の歳月を経て、冒頭のシーンを迎えるのだ。

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この間、メールや電話をしても、返信のない状態が続いていた。22年夏のインタビューで激しい憤りを見せてから数分の沈黙を挟み、事の経緯を説明し始めた工藤さんの表情は、まるで人が変わったように淡々としていた。彼によると、転職活動は難航し、人事・労務で磨いてきたノウハウや能力、さらに管理職としての経験も予想していたように有利には働かなかったという。