軍隊時代より「部下」への負担が重くなっている
戦時中、日本軍では上官の心得として「命・解・援」ということを叩き込んでいた。下っ端の兵隊を「突っ込め」の一言でキビキビ動かすには、まずしっかりと「命令」を下して、「なぜそれをやるのか」「どうやるのか」という「解説」をしてやって、さらにその命令が実行できるような助言などの「援助」もしてやらなくてはいけない。上官たるもの、この3つのサイクルをまわしていかないと、部隊は全滅してしまうと言われていた。
ここまで言えばもうお分かりだろう。1980年代に広まった「ホウレンソウ」というのは、「命・解・援」の世界観を部下側から焼き直したものに過ぎないのだ。
そう言うと、「本当のホウレンソウは、部下が上司に萎縮をしないで、報告や連絡や相談をしやすい風通しのいい職場をつくることなので軍隊の影響などではない」と反論する人も多いが、「部下とは上司に報告や連絡や相談をするものだ」という考え方自体が、実は民間企業にはない発想で、軍隊特有のものだということに気づいていない。
むしろ、上司の気持ちを先まわりして、部下が率先して報告・連絡・相談をするのが理想、という考えは、ある意味で軍隊より「下」への負担を重くしていると言えなくもない。
歯車が狂うと、不正やハラスメントの温床になる
軍隊というのは、連戦連勝している時はムードもよくて、風通しもいい。しかし、敗色が濃厚になるとあらゆることが逆回転して、不正やハラスメントなどさまざまな問題が生じる。
日本企業も同じだ。人口が右肩上がりで増えて、経済も順調も成長をしている時は、年功序列も滅私奉公もうまく機能する。ホウレンソウによって風通しがよくなる。しかし、人口が減少に転じて経済も低迷してくると、年功序列も崩壊してリストラが加速して、滅私奉公は過労死へ、という感じで逆回転をしてしまう。
「目標達成のためには部下の生殺与奪権を与える」なんてことが経営計画書に書かれるほど、管理主義が浸透していたビッグモーターは、典型的な「軍隊企業」だ。拡大戦略がうまくいっている時は、ブラック労働でも社員は高収入が得られたので、LINEを用いたホウレンソウも機能していた。
しかし、拡大戦略が破綻すると、敗戦間際の日本軍のように、現場に過剰なプレッシャーがかけられる。すると、LINEを用いたホウレンソウは機能しないどころか、「公開処刑」などのパワハラの温床になり下がってしまうのだ。
われわれは一度、「これが正しい」と教育されたことはなかなか否定できないが、「時代」が変われば、「正しい」も変わっていく。ホウレンソウはその代表だ。
今は「LINEで業務連絡はするのはブラック企業」という主張が多く見られるが、そう遠くない未来、「ホウレンソウを徹底せよというのはブラック企業」が社会の常識になっているかもしれない。