上司と部下の人間関係を良好にするためのコツはあるのか。外資系企業で産業医を務める武神健之さんは「上司には3つの役割がある。それを理解しておくことで部下をメンタル不調に追い込むようなコミュニケーションを防止できる」という――。
通りを歩くビジネスパーソンの後ろ姿
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人間関係ストレスは「終わり」が見えない

こんにちは。産業医の武神です。

私の産業医面談の相談内容で多いものの1つに、職場における人間関係ストレス相談があります。そのほとんどは上司との人間関係で、どの年齢層にもいつの時期でも、多々あります。

人間関係ストレスの厄介なところは、終わりがなかなか見えないことです。どちらかが異動や退職をしない限り、明日も来週も来月も来年も続いてしまうのです。そのために、明るい未来が描けず、メンタル不調になってしまう方が絶えません。

そこで今回は、部下との人間関係で上司がやりがちなNG行動を紹介し、部下をメンタル不調にしないために気をつけるべきことを、お話しさせていただきたいと思います。

睡眠は良好、働き方も変わらないのに「晴れない表情」

数年前の私のクライアントでのお話です。

自ら希望し過重労働面談(長時間労働者の面談)にきたAさんは入社8カ月の30代の独身男性でした。外資系企業での転職は2回目で、今回は、前職での営業成績を買われ契約年収も増え、キャリアアップの転職でした。Aさんは、毎朝7時に出社し、接待がない日は日付が変わる直前まで働き、週末もどちらかは家で働いているとのことでした。家でも会社でも、基本的に接待以外の食事は全てデスクランチで、起きている時間はほぼ仕事のことを考えているとのこと。

前職からこのような働き方なため、この生活に慣れており、面談時点では特に明らかな体調不良や疲労の蓄積はありませんでした。産業医としてはこのまま就業可能と判断しましたが、何かAさんの表情が晴れないことが気になりました。Aさんの前職も私のクライアントであったことから、共通点が多く話しやすかったため、型通りの面談後、しばらく雑談させていただきました。

そこでわかったことは、この会社に来てからも働き方は変わらないのに、なぜかAさん自身の気分が晴れず、かといっていい営業成績を取りたい気持ちはあり、モチベーションが下がっているとは思えず、このままでいいのかわからない気持ちを持っているとのことでした。ちなみに、睡眠は良好、数少ないプライベート時間も楽しめており、メンタル不調を疑う症状はありませんでした。