日本人は自らレッドオーシャンに飛び込んでいる
そんな社会で少数派でいることは希少性と同義であり、だからこそ、誰もやっていないことにチャレンジする変わった人をファーストペンギンと呼んで称賛する文化がある。誰も攻めていない市場はブルーオーシャンと呼ばれ、逆にみんなが集まっている市場はレッドオーシャン。過酷な競争が待ち受けているので参入は控えたほうが無難だと言われている。
正直に申し上げて、日本人の多くは自ら進んでレッドオーシャンの競争に飛び込んでいるように見える。なぜなら、人間は大衆の言動に従う傾向が強いからだ。これは「社会的証明」といって、自分が決断する際に、他人の行動や他人から得た情報に影響を受ける心理作用が働いている。多くの人が会社と戦うという選択肢に抵抗を感じるのも、この社会的証明のせいだといえる。
レッドオーシャンで勝てるならいいが、中学オール5から高校オール3、時には2に近い成績に転落した私は「あんな努力の化け物たちと同じ土俵で戦うなんて無謀だ」と素直に実力不足を認め、他者と差別化できる道を模索するほうが賢明だと考えて生きてきたし、その戦略は正しかったと今の私は確信している。
「我慢するか逃げるか」以外の選択肢があってもいい
個人的に一番厄介だと思うのが、会社と戦うにあたっての情報不足だ。労働法のプロである弁護士や社会保険労務士の発信している情報は簡単に見つかるが、正直眠くなってくる。
例えば「労働契約法第十六条によると、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」……。こんなお堅い情報を紹介されても、スッと頭には入ってこない。
かといって訴訟体験者の発信している情報は少なく、やっとこさ見つけたとしても被害者感情で占められているケースが多い。負の感情は感染するため、こういった情報を吸収すると私は気が滅入ってくる。
もちろん労働基準監督署や弁護士のところへ直接相談に行くのは敷居が高く感じるだろうから、最終的に悩める労働者が行き着くのは「逃げるが勝ち」といった、ありきたりな結論になるのではないか。
在職か転職か、二つから一つを選ぶのは窮屈だ。私は「会社と戦う」という選択肢を提唱はできても推奨はできないが、第三の選択肢がもっと身近になればいいなとは願っている。
もちろん、「辞めずにとっとと訴えろ」といったトレンドが来るのはいかがなものかとは思う。しかし、だれもが会社員としての正当な権利を遠慮せずに行使することができれば、健全な経営で成り立っているホワイト企業はより利益を上げるだろうし、劣悪な労働に苦しむ人の数は減る。国全体の幸福度も底上げされるのではないか。
これからも私は稀有な経験を発信していきたい。どうか応援していただけたらうれしい。