ブラック企業は変わらないし、反省もしない

会社を辞めることは自他から実力不足のレッテルを貼られることと同じ。屈辱は避けられない。なぜならその仕事を選んだのは他でもない、自分自身の判断だからだ。これは心理学でいう「コミットメント効果」と呼ばれるもので、人間は一度こうだと決めた判断にとらわれ、初志貫徹を押し通そうとする傾向が強い。

そのほか、異常状態が正常になっていく適応能力の問題。転職活動するエネルギーが残っていない「悪しき職場の罠」についても指摘されている。

このように自分から会社を辞めることは困難なわけだが、そうはいっても現状は改善してほしい……。企業や政府などへ労働環境の改善を期待、あるいは責任転嫁する人が多いのはこのためだろう。もちろん長時間労働や低賃金、違法労働が横行する企業や業界についての改善は必要だ。声を上げることは大切だし、企業や政府がやるべきことはたくさんある。

その上で、私は「自分の人生を他者に委ねて良いのか」といった素朴な疑問を抱いている。なぜなら他人の考えや行動を変えることは非常に難しいからだ。

実際、私が訴えた2つの会社は私の知る限り、裁判後も労働環境に大きな変化は起きていない。またどちらの会社からも裁判中に謝罪は一度もなかった。そう、会社は簡単には変わらないのだ。他力本願はリスクが高い。自分自身が変わるほうが手っ取り早いし、確実だ。

雪山のゲレンデにも会社携帯を持参していた

こう言うと「お金がない」「時間がない」といった批判が飛んできそうだが、申し訳ないがお金も時間も何とかして自分で捻出するしかない。今どきはネットで情報収集できる。労働局では予約不要の匿名無料相談を受け付けているし、弁護士への相談も初回無料のところが多い。法テラスを使う手段もある。

私は思う。必要なのはお金や時間ではなく「人と違うことをする勇気」の問題ではないだろうか。

かくいう私も、実はけっこう同調圧力に弱い。月100時間近くのサービス残業をこなしていたブラック企業時代が好例だが、労務知識と訴訟経験があった2社目の隠れブラック企業時代も同じ過ちを繰り返しているので簡潔に紹介したい。

人生2回目のクビを宣告されたのは中途入社4年目を迎えた頃。主な解雇理由は、勤務時間外に仕事の電話に対応しないから(つまり、サービス残業をしないから)。だが、これはそれまでの期間はキチンと対応していたという裏返しでもあった。

事実、私は渋々ながらも無休で無給の電話対応をほぼ完璧に遂行していた。スノーボードが趣味なのだが、雪山のゲレンデにも会社携帯を持参する徹底ぶりだ。リフトに乗っているタイミングで着信やメールが来ていないかを確認していた。