医学部ブームの危険性

【佐藤】そういうことを考えても、今の医学部ブームはちょっと危ないと私は思っています。わが子を医学部に入れたい、医者にさせたいという親は昔からいますが、今はそうした親のニーズを先取りする形で、いろんな専門予備校が出来たり、それどころか私立の中学校・高校では医学部入試に特化した教育をするところも出てきています。

【片岡】そういう話はときどき聞きますね。

【佐藤】中産階級の親たちは、自分の子どもが貧困層に転落するのが怖くて「医者を目指せ」とわが子の尻を叩くわけです。「医者になれば貧困層に転落することはないだろう」と親たちは思っている。

少年を励ます両親
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【佐藤】しかし、今やお医者さんというのは必ずしも高収入の仕事ではないし、社会の中で特権的な立場を持っているわけでもありません。

たとえば大学病院の勤務医の場合、片岡先生のように50歳を過ぎても大学病院に残っているのは熾烈しれつな競争を勝ち抜いた人か、人間関係のバランスの取り方がすばらしく上手な人か、あるいはその両方を兼ね備えている人ですよね。しかし、その割には物質的な報酬がきわめて少ない。

【片岡】たしかにそうかもしれませんね。

医師の仕事はブラック労働か

【佐藤】2021年5月に成立した改正医療法で、医師の残業の上限は年間1860時間と定められました。この法律が適用されるのは2024年からですが、1年間の残業が1860時間ということは、ひと月あたり155時間ですよ。これは過労死のラインを軽く超えています。法律が改正されたからブラックな労働環境が改善されたのだろうと思う人もいるかもしれませんが、実はそうではない。むしろ、ブラック労働をオーソライズする法律なんですね。

それでいて、大学病院の勤務医が年収2000万円を超えるかと言えば、これはほぼ不可能です。お金の話はみんなしないけれども、大学病院勤務によっては若手医師で年収200〜300万円、20年勤務していても400〜500万円くらいというケースもあるのではないですか。

【片岡】勤務時間に関しては、医者の勤務時間を制限しすぎると、実際に医療がまわらなくなるという現実があります。収入に関しては、さすがに少しずつ待遇を上げる方向にあるので、われわれが医療練士(いわゆる研修医)をしていた頃の年収よりは上がっていると思いますが、私大で研究を頑張る医者の収入は一般的に少ないと思います。

【佐藤】だからみんな日給10万円というアルバイトをするわけですが、先ほど話題に出たとおり、そのアルバイト代はこの十数年ぐらいは10万円で頭打ちで、下がっているケースもある。