質問の変化に対応できない「保続」

質問が変わっているのに、前頭葉が働かず、同じ答えを繰り返してしまいます。前頭葉に出血や腫瘍があると、質問の変化に対応できないのです。これが「保続」です。最初の質問にはちゃんと答えられているのですから、理解力や記憶力に問題はないことがわかります。

前頭葉がバカになると、ここまで極端ではないにせよ、感情や思考にも「保続」が起こります。いったん何かのことで頭に血がカーッとのぼると、時間がたっても怒りがなかなか収まらないとか、シチュエーションが変わっても考えが変わらないとかです。

通常は、誰かと会話したり、車の運転や食事をするなど、その場その場で感情のスイッチが切り替わり、怒りは徐々に薄れていきます。ところが前頭葉バカはうまくスイッチを切り替えることができません。

あるいは、コロナウイルスが弱毒化して政府が規制を解除しても、コロナが危険だという考え方が変えられないのも同様です。

「保続」の現象が起こるのは、前頭葉の老化した老人だけにかぎりません。

些細なことで不安になり、同じことばかり考える負のループにはまってしまうことは誰にでもあります。

仕事で何かミスをしたとします。そのミスを何度も振り返っては「自分はやっぱりダメだ」と落ち込み、同じ場所をぐるぐるしてしまいます。すると、ますます落ち込んで、さらに不安になり、脳も体も疲弊します。

「落ち込んだときは反省しない」

この悪循環を断つためには、「落ち込んだときは反省しない」とキッパリと決めることです。

反省しようとすると、自分の弱点や失敗点を探しがちで、自己批判が起こるからです。ここで必要なのは反省ではなく、多様な思考です。

この場合、自分を批判したり責めたりするのでなく、他の可能性を考えられるだけ考えてみるのです。そこにネガティブな感情や非難は必要ありません。むしろ次に何をするべきかを考えます。

しかし前頭葉がバカになっていると、判断力が鈍り、どんなことも悪いほう悪いほうに受け止めがちです。

大切なことなので、もう一度いいます。「落ち込んだときは反省しない」。

和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)
和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)

同じ場所をぐるぐるしている自分に気づいたら、いったんリセットして、他の可能性に気づくように仕向けましょう。

ぐるぐる過去のことを考える→過去のことばかり考える自分に気づく
→過去のことを考えても現状は変わらないので考えるのをやめよう→
リセットを行なう → 今できることを考える

考えをリセットする方法は、たとえば深呼吸する、コーヒーを淹れる、歯を磨く、トイレに立つなど、何でもいいのです。

前頭葉バカの人は、「自分は切り替えが下手だから」「どうせ無理だから」と決めつけがちですが、これを何度も繰り返すことで、リセットして別のことを考える習慣が身につきます。はじめはどんなに下手でも、練習さえすれば、誰でも思考のリセットができるようになります。

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