※本稿は、和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
前頭葉は40代から衰えはじめる
日本という国では、前例踏襲、現状維持、事なかれ主義、極端に失敗を怖れる認知バイアスなどが人々の思考や判断にとても大きく作用していると感じます。精神科医として、高齢者医療に35年以上携わった経験から、わたしはその原因が、日本人の「前頭葉」にあるのではないかと考えています。
前頭葉の主な働きには次のようなものがあります。
前頭葉の主な働き
○思考する
○創造性を発揮する
○やる気を出す
○行動や感情をコントロールする
○コミュニケーションをとる
○集中力
○応用力
○変化に対応する
前頭葉は、人類が自然界の厳しい生存競争に勝ちぬき、生き残るために進化したといわれています。変化に対応するうえで重要な役割を担い、人間を人間たらしめている大切な部位なのです。他の動物と比較して人間の前頭葉が異常に大きいことからも、それは明らかです。
前頭葉を正しく使えていない状態を、本稿では「前頭葉バカ」と表現することにしますが、前頭葉を正しく使えないと、どんな状態になるかというと、「自分の頭で考えない」「変化をきらう」「前例を踏襲する」「創造性を発揮できない」「意欲がわかない」「新しいチャレンジをしない」といったことがあたりまえになります。
さらに、前頭葉は40代ぐらいから画像診断でわかる程度に縮み始めます。前頭葉が司る感情のコントロール機能や自発性、意欲、創造性が歳をとるごとに衰えていき、ますます前頭葉を使わないように、前頭葉にラクをさせるようになります。
日本人が変われないのは「前頭葉バカ」が増えたから
前頭葉にもっともラクをさせる方法が「前例踏襲」です。たとえば、行きつけのお店にしか行かなくなること。話の筋がだいたいわかる同じ著者の本しか読まなくなること。選挙で同じ政党にしか投票しないこと。一度うまくいった成功パターンをずっと続けること。これらはすべて、前例を踏襲した前頭葉バカの状態です。
また、自分自身を振り返って、「すぐにイラッとする」「昔の成功体験にすがっている」「怒りがなかなか収まらない」「新しいことに挑戦しなくなった」「守りに入った」「感情の切り替えができない」と感じたなら、前頭葉バカが始まっているサインだと思ってください。
前頭葉を使わなくても、側頭葉や頭頂葉で情報処理や知的活動ができるため、前頭葉が老化していることに本人は気づきにくいのです。「最近、物忘れが激しくて……」と心配する高齢者の方も多いですが、人間の脳は記憶を司る海馬よりもずっと先に、前頭葉からバカになっていきます。
言語理解を司る側頭葉や計算能力に関係する頭頂葉は、かなり高齢になるまで老化しません。平均的に70代ではあたりまえに言語能力や計算能力を維持することができます。
日本人が変われないのは、前頭葉をうまく使えない前頭葉バカが増えたからだ、とわたしは考えています。そこには、ふたつの要因があるでしょう。ひとつは日本人の高齢化。そして、もうひとつが日本の高等教育の貧困です。