アメリカ、EU市場は「メガ・ファーマ」の主戦場

ただ、医薬品の場合、前述のように一般市民に一定の購買力がある国・地域であることが求められる。この点では世界最大のアメリカ市場や地域単位で見ると日本より規模の大きいEU市場が理想的だ。しかし、これらの地域は日本トップの製薬企業・武田薬品を年間売上高や年間研究開発費の規模で最大3倍は上回るグローバル製薬大手、通称・メガ・ファーマ各社の主戦場。そこで互角に渡り合える日本の製薬企業はごく一部に過ぎない。

昨今は製薬企業による新薬開発の成功率は年々悪化している。

医療用医薬品は飲み薬に代表される低分子薬と注射薬に代表される高分子薬に大別される。2000年半ばくらいまでは、国内外の製薬企業の新薬開発トレンドは、市場規模が大きい高血圧症、糖尿病などの生活習慣病領域を標的にした低分子薬だった。しかし、これら領域は新薬が開発され尽くした状態となり、現在はがんや難病を標的にした高分子薬、なかでも病気の原因たんぱく質の働きを抑える人工的な抗体を医薬品とした「バイオ医薬品」が主流となりつつある。

その結果、低分子薬でも高分子薬でも開発難易度は高くなり、開発の成功確率も低下。加えて高分子薬の開発経験で日本の製薬企業は、メガ・ファーマに一歩後れを取っている。

結果的に日本の製薬企業が注目するのはまだ低分子薬のラインナップすら十分とは言えないアジア地域、中でも購買力と巨大な人口を要する中国市場となる。中国はメガ・ファーマに比べ、物理的距離が近くヒト・モノのロジスティックスの観点でも日本の製薬企業には一定のアドバンテージがある。

国内市場のライフサイクルが終了してもまだ売りに出せる

また、中国国内の製薬企業事情も日本の製薬企業にとっては有利に働いている。

今から10~20年前の中国の製薬企業は、日米欧の製薬企業に比べて研究開発力も乏しく、研究開発から販売まで一貫した機能を持つ企業も極めて少なかった。結果的に日米欧で日常的に使われている新薬は、特許失効後にようやく中国国内の製薬企業がジェネリックを製造・販売する状況で、それすらも品質上は日米欧の基準で見れば、粗悪品と報告される頻度も多かった。

しかも、人材不足などにより医薬品の承認審査体制も貧弱で、製薬企業が臨床試験のデータを取り揃えて承認申請後、その可否が決定するまでに3年程度かかることも珍しくなかった。

ちなみに日米欧の場合、よほど大きな問題がない限り、製薬企業の承認申請から1年前後で承認可否が決定する。

この状況では、日本の製薬企業が自社の新薬を日本から数年遅れで中国に投入してもビジネス上は十分に勝機があったのである。加えて言えば、爆買いに代表されるように中国国内では富裕層を中心に日本製の品質に対する信頼感が高かったこともアドバンテージだった。