「中国製造2025」製薬産業の本格育成を始めたが…

中国側も習近平政権下の2015年に発表した製造業振興方針「中国製造2025」で製薬産業の本格的な育成を開始。これに応じて世界各国の研究機関に在籍していた中国人研究者やメガ・ファーマ勤務経験のある者が帰国して製薬企業を設立し始め、現在は日本の製薬企業との研究開発力の格差は急速に縮小している。停滞していた審査体制も大幅に拡充され、今は承認申請から半年程度で可否が決定されるようになった。

とはいえ、長らく中国国内の製薬業界が空洞化していた影響は今も引きずっており、現在でも医療機関に流通している医薬品はまだジェネリックが過半数を占める。このため品質で下馬評が高い日本の製薬企業の医薬品は、日本国内で特許失効によるジェネリックとの競合で半ばライフサイクルが終了していても、中国市場ではまだ一定の競争力を有する。

実際、日本の製薬企業が製造販売する新薬の中には、特許失効後に日本国内で急速に売り上げが低下したにもかかわらず、中国市場で日本を超える売上高を叩き出している製品が少なからず存在している(図表2)。

【図表】国内製薬企業の特許失効医薬品の日中売上高状況(2022年3月期、億円)
筆者作成

「反スパイ法」以外の中国市場への懸念事項2つ

今回のアステラス製薬社員の拘束は、中国に注目する日本の製薬企業にやや冷や水を浴びせたことは確かであり、他にも今後の中国市場では(1)日本の製薬企業と肩を並べるレベル・規模感の国内製薬企業が登場による競争激化、(2)日本を追う高齢化による人口減少、といった警戒要因はある。

しかし、(1)に関しては、広大な国土と巨大な人口を抱える結果として中国が複雑なサプライチェーンを抱えていることを考えれば、日本の製薬企業にとってはまだ十分に競合余地を残している。

(2)に関しては、1979~2014年まで続いた中国の「一人っ子政策」の反動で、確かに2023年1月に中国国家統計局が発表した中国の65歳以上の高齢者率は、高齢社会のレッドラインと言われる14%を超え14.9%となった。

ただし、日本のような急激な人口減少局面に入るのはまだかなり先の話である。むしろ直近だけで見れば、日本の製薬企業がこれまで日本国内の高齢社会を念頭に開発してきた新薬を投入しやすい環境というプラス面さえある。