役人の天下り確保で、4兆円以上が消えた

週刊誌の連載記事が、政権を崩壊させることがある。

週刊現代で2001年から約1年間続いた連載記事「『年金崩壊』のウソ 誰が安心を食い潰したのか」を覚えているだろうか。

筆者であるノンフィクション・ライターの岩瀬達哉氏は丹念な取材で、国民から集めた「掛金」が健康福祉センター(サンピア)や大規模年金保養基地(グリーンピア)などの建設に流用され、官僚たちの「利権」と「天下り先」になっていることを突き止めた。その結果、総額約4兆3000億円の年金財源が失われたことがわかった。

この連載は年金問題の先駆けとなり、国民の怒りに火をつけた。岩瀬氏は民主党(当時)の長妻昭議員とタッグを組み、「消えた年金問題」を長妻が国会で徹底追及した。これがきっかけとなり、社会保険庁は解体され、2007年の年の参議院選挙で自民党は改選前の64議席から37議席に減らすという大惨敗を喫したのである。

その後、安倍首相が体調を理由に首相の座を降りたことで第一次安倍政権は崩壊し、その後の民主党政権成立へという流れができた。

今回のマイナカードの“迷走”を見ていると、当時と同じような“空気”を感じる。

自民党役員会に向かう岸田文雄首相(手前)=2023年7月4日、東京・永田町の同党本部
写真=時事通信フォト
自民党役員会に向かう岸田文雄首相(手前)=2023年7月4日、東京・永田町の同党本部

消えた年金はサンピアやグリーンピアという無駄な施設に湯水のようにカネをつぎ込み、役人たちの天下り先としたが、一般の国民たちはそんな存在さえも知らないうちに4兆円以上の国民の年金が失われてしまった。

この「分かりやすさ」が国民の怒りに火をつけたのだが、健忘症気味の日本人はわずか16年前のことも覚えていないかもしれない。だが、今回のマイナカード問題も同じようにとても分かりやすいのである。

「2万円」というアメをぶら下げて加入させたが…

5000円付与ではマイナカードが普及しないことに業を煮やした岸田文雄首相が、2万円に引き上げるという大きな「アメ」をぶら下げて国民に加入を促した。入るだけで2万円ももらえるならとあっという間に国民の80%近くがカネに釣られて加入した。

岸田首相は無鉄砲だけが取り柄の河野太郎氏をデジタル相に任命したが、その河野担当相が突然、「マイナンバーカードと健康保険証を一体化する」(昨年10月13日の会見)と発言したのである。

続いて岸田首相が「2024年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一体化する」と明言したから、2万円だけもらって、使うのはずっと先だからタンスにしまっておけばいいと思っていた多くの人は、「冗談じゃない。話が違う」と大反発したのである。

アメを配っておいてそこそこ行き渡ったら、生死に関わる健康保険証をマイナカードに一本化すると「ムチ」を振り上げた。

だが、それと同時にマイナカードのトラブルが次々に明るみに出てきて、政権の支持率は大きく下落したのである。