「私は国民ではあるが、番号ではない」

少し古いが、国民総背番号の改正が成立した直後、保守派の論客である櫻井よしこ氏が新潮(2002年1月31日号)に書いた一部を紹介しよう。

櫻井氏は、国民総背番号制と同じような社会保障番号制が導入されているアメリカの例を出し、当初は公的年金や社会保険目的に限定されていたのに、ローンの貸し出しや図書館での借り出し、税金、病歴、離婚歴まで、あらゆる個人情報が番号の下に集積され、拡大していっていることへの危機感を訴える。そして、こう書く。

「番号をふられICカードを持たされる国民の姿は個人情報を逐一把握され、国家によって支配され、プライバシーの侵害を恐れる脆弱ぜいじゃくな姿である。自由を保障され、一人一人がのびやかに生きる健全な民主主義社会の姿とは程遠い。

闊達かったつな精神と尽きない想像の力、深い理解力を持った魅力的な人間集団としての国家は、その基本で、最大限の自由が保障されているはずである。日本はそんな国を目指さなければいけない。

そして私は国民ではあるが、番号ではない。番号になることも断じて嫌である。私たちはこの悪法、改正住民基本台帳法を廃止すべきである。国民の多くがその存在さえ知らない悪法によって、この国の自由なる精神を阻害してはならない」

その姿は、まるで幽霊に憑りつかれたよう

あれから20年以上が過ぎ、国は国民のプライバシーを根こそぎ把握しようと、マイナカード普及に躍起になっている。

マイナカードのシステムのお粗末さも、プライバシー管理の脆弱さも無視して突き進んでいる姿は、まるで幽鬼に憑りつかれたようである。

だが、多くの国民の「信頼できない」「不安だ」という声はさらに大きくなるはずだ。

「消えた年金」で安倍第一次政権を崩壊させたジャーナリストの岩瀬達哉氏も再び動き出した。週刊現代(7月1・8日号)で「巨弾スクープ 日本人の『マイナンバーと年収情報』はこうして中国に流出した」という連載を始めたのだ。

岩瀬氏は消えた年金問題の追及を受けて社会保険庁が解体された後、新たに日本年金機構を設立するにあたって、設立委員会の委員に就任し、その年金機構を「調査審議」する社会保障審議会年金事業管理部会の委員も務めてきた。

岩瀬氏は連載の第1回でこう書いている。

「日本年金機構が業務委託した事業者(SAY企画)から、厚生年金受給者のマイナンバーのほか、住所、電話番号などの個人情報、さらには所得情報までが中国のネット上に流出したのは、わたしが年金事業管理部会の委員在任中のこと」