収入1日100円の人が無担保で“巨額融資”され完済

このバングラデシュを皆さんが訪ねることはまずないと思います。観光地もビジネスの案件もほとんどないからです。そんなバングラデシュに私が行ったのは、グラミン銀行を自分の目で見たかったからです。

グラミンとは、現地の言葉で「農家」のこと。グラミン銀行は、農家のための銀行なんです。グラミン銀行は二つ、偉大な仕事をしていました。

一つは、教育を受けられなかったために自分の名前すら満足に読み書きできない人々に対して、たった1枚の契約書だけで、無担保で彼らの年収に近い金額の3万円を融資していたことです。

もう一つは、お金を貸して終わりではなく、お金の使い方を指導したこと。たとえば3万円を融資したら「帰りに必ずヤギを買って帰りなさい」と指導します。農作業の合間にヤギの世話をし、乳を搾れば、市場で売れます。

それまで1日の収入が100円だった人が、3万円を借りてヤギを買い、その乳を市場で売ることで、1日の収入が500円、つまり5倍になったそうです。年収も5倍。1年後にはみんな、約束通り、借りた3万円を返しにきます。グラミン銀行はそのお金を、また別の人に融資することができます。

グラミン銀行が最初の年にお金を貸すことができたのは、たった42人、27$だったそうです。それが今では930万人に4.4兆円を融資しています。世界中の900万人以上もの人を、グラミン銀行は救ってきた。

『プレジデントFamily2023夏号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023夏号』(プレジデント社)

「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の素晴らしい奇跡が、この最貧国で実現していることに私は驚きました。設立者のムハマド・ユヌス博士とグラミン銀行は、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。

グラミン銀行を設立したとき、ユヌス先生はみんなに笑われたそうです。たった3万円を貸して、いったいいくら儲かるんだ。しかも、貧しい農家に貸すなんて、きっとそのお金は返ってこないに違いない、と。

でも、ユヌス先生はまったく違う未来を描き、その実現のために取り組んでいたんです。そして、多くの人を救いました。

私は感動しました。日本に帰ったら私も、こういう仕事をしようと心に決めたのです。