「車をきれいに安心に」のニーズに応えた

本部からは反対の意見も出ましたが、2軸目を使い、新しいカーライフを提供するガソリンスタンドの存在を業界にとっても必要であるとの説得を行い、最終的にはゴーサインが出ます。

想定通り、ガソリンの価格は競合が常に1~2円/L安く、開店当初は苦戦が続きました。ところが「新しいカーメンテナンスを提供する」という選択肢が浸透し、徐々に互角に戦うことができていきます。

ガソリンスタンドの料金表示
写真=iStock.com/Tom-Kichi
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日本においては法的に必要な整備(車検)があり、2年(新車の場合は3年)に1度、必ず車検を受けなくてはなりません。また、当時は女性ドライバーの増加や移動手段だけではなくカーライフを楽しむ層の増加により、「車をきれいに保ち、安心で乗り続けたい」とのニーズが増加してきている時期でした。

こうしたニーズを満たす場所が普段給油をしているガソリンスタンドでできるとの利便性が浸透し、その結果、安売りの競合に劣らない客数の確保ができました。

競合とは戦わず、V字回復を達成

「ガソリンをとにかく安く買いたい(車のメンテナンスは不要)」という層は競合に行き、「ガソリンは高くても良い、でも車のメンテンナンスはきっちりしてほしい」という層が自店に来店し、競合との共存が成立しました。結果、周辺の従来型GSが閉店していく中、安売りの大型店と新しいカーメンテナンスを提供する自店のみが生き残りました。

同様の業態のガソリンスタンドを2店舗、計3店舗出店し、いずれも競合との差別化が図れたことで安売り店との共存に成功します。2軸思考は戦略的思考ですから、競合と戦うためのメソッドと思われがちですが、実は真逆です。2軸思考を使うことで競合がやらないことが見つかり、競合とは戦わないポジションを見いだすことができます。

これらの取り組みの結果、当初億単位の赤字見込みで会った販売店さんも、最終的には収支を黒字で終えることができ、その数年後には1億円を超える利益を計上するまでになりました。当時、日産がV字回復を果たした時期と重なったことから、「億単位の赤字見込みから億を超える利益をあげたガソリンスタンドでのV字回復」として、出光興産・社長賞までいただくことができました。