コナンは自分の声で推理を伝えられない「弱い」探偵

コナンの直面する困難の最も大きいものは、自分の推理を自分の声では伝えられないことでしょう(誰が小学1年生の推理をまじめに聞くでしょうか)。それゆえ、探偵として推理を披露するために、コナンは周囲の大人をラジコンのように操作しなければなりません。

大抵の場合、居候先の探偵である毛利小五郎を麻酔針(!)によって眠らせて近くに隠れ、彼の声を特殊なボイスチェンジャーによってまねて、その声で推理を話すというやり方をとります。それが難しいときは、わざわざ推理のヒントになるような素朴な質問を投げかけ、警察や小五郎に真実へ誘導することもあります。いずれにせよ、〈大人の世界〉で通用するように、コナンは他者の声で話さなければならないわけです。

コナンと毛利小五郎
©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

先に述べた「麻酔針」や「特殊なボイスチェンジャー」は、コナンの秘密を知る協力者の一人である阿笠あがさ博士が開発した発明品です。コナンは主要な女性キャラクターたちにも依存しています。彼女たちはみな武闘派なのですが、コナンは自分で人を守るだけでなく、彼女たちに守られることにも慣れていきます。

こうして他者に依存せざるをえない「弱さ」に、旧来の探偵物語との大きな違いがあります。大人の名探偵は、独力か、せいぜいバディの力を借りて何とかしようとしますが、コナンは他者に依存することでしか「探偵」になれないのです。

「嘘」によって事件と接続する子供たち

子供としての「弱さ」を受け入れる姿勢は、別の面白さにもつながっていきます。事件と接続するために、子供たちがカジュアルに嘘をつくことです。

コナンの物語世界では、基本的には、大人が事件を起こして、子供が捜査・推理します。しかし、子供は〈大人の世界〉から排除されているわけですから、単純に考えれば、まともに探偵の役割を担えません。そこで登場するのが、子供たちによる「カジュアルな嘘」です。

建前として、子供には嘘をつくべきではないと語られることがよくあります。しかし、作中でコナンをはじめとする子供たちは、事件や謎に主体的に関わるために、遠慮なく嘘をついていきます。(正直に話しても大人は相手にしないから仕方がありません。)。

よくある嘘としては、ボイスチェンジャーを使って、警察や小五郎のふりをして電話をかけ、関係者を呼び出すというものがあります。ファンはコナンの「あるある」に慣れているので、あれが嘘であることを意識すらしていないかもしれませんが、こういう方便は随所に見られます。

「毛利小五郎の手伝いだ」と偽って、事件関係者から話を聞いたり、警察に調べものを頼んだりすることもあれば、「子供は危ないからここにいなさい」と言われて、「はーい」と答えながらもそれを無視することもよくあります。