コミュニケーションがうまく取れなかった
次に言葉の壁もありました。アメリカでの国家試験を通ったので、英語での医療用語は頭の中に入っていたつもりでしたが、現場では試験では出てこない略語がどんどん飛び交います。いったい何を話しているのかもわからない状態になりました。
これは医者に限らず、あらゆる新入社員の方がそうだと思うのですが、新人というのはわからないときに、自分がどの段階まで調べたらいいのか、様子を見たほうがいいのか、いま質問すべきタイミングなのかがわからない。今、自分が指導する立場になってみると、疑問を持った時点で聞いてほしいと思います。ですが、「そうは言っても、聞いてしまうのは迷惑なのでは」と思ってしまって、うまくコミュニケーションが取れなかったんです。
また文化の壁もありました。アメリカでは、自分をアピールする必要があります。日本で教育を受けてきた私にはなじみのない文化でした。このアピールとは「自分はこんなことができます!」と主張することではなく、上司に質問をする中で「自分はここまでわかっています」と伝えたり、チームメイトに「私はこう思います」としっかり発言するといった自然なコミュニケーションの中でするものです。
できないことを「仕方がないこと」と思えなかった
そのことを理解するまでも時間がかかりましたし、わからないことがあってもみんなの前で質問するのではなく、授業後にこっそり先生に聞きに行く文化で育ったので、その場で自分が疑問に思っていることを口にするハードルも高く感じました。
さらに上司と部下の関係も、どのくらいフランクで、どのくらいフォーマルなものか、つかみかねていました。日本だったらなんとなくわかることも、ニュアンスがつかめない。その中で同期のアメリカ人研修医はどんどんいい関係性をつくっている。
だから、最初の1~2年はすごく苦しむことになりました。患者さんがいることですから「できないのはしょうがないね」とはなりません。周囲からも許容されませんし、当然ながら自分自身も許容することはできませんでした。