賢くてコミュ力も高いのに前に出ない「しずかちゃん」

例えば『ドラえもん』のしずかちゃんは、理想の日本人女性像として描かれています。しずかちゃんは賢くてコミュニケーション能力が高い女性です。それを発揮する機会は限られた条件でしか与えられない。彼女がリーダーシップを取る姿はほとんど描かれません。

最終的にはしずかちゃんは、のび太くんと結婚して彼を世話する人になる――彼女自身がそうした選択をすること自体は否定していませんし、そういう女性になりたいと思ったり、幸せに感じる人もいるでしょう。ただ、そういったロールモデルが、私たちが見るメディアや、日常の中や会話で、圧倒的に大多数を占めていることに気づきました。

インタビューに応じる内田舞さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
インタビューに応じる内田舞さん

また、私はけっこうコミカルな言動をするタイプなのですが、当時の日本のお笑い芸人は男性がほとんどで、クラスの中での「面白い役」も男子ばかりでした。だから面白いことを思いついても、みんなの前で口にすることを躊躇してしまうこともあったし、一歩引いてしまうところがありました。

そうした無意識のジェンダーバイアスは、日常のいたるところに潜んでいて、気付かないうちに内在化してしまいます。しかも最初は自分の中で反発していたとしても、日々の中でスルーしてしまい、当たり前のものとなってしまう。でも心の中のムズムズは解消したわけではありません。私自身も「理想の女性」に反発を抱きながらも、恋愛の面ではいつの間にか内在化していたわけです。

「少子化を止めるために女性は働かないほうがいい」

「理想の女性」ではなく、私の面白さや魅力を素直に出したいと思った時に、私は男の子に好かれたいという気持ちがだいぶなくなったことを感じました。誰かから好かれる私ではなく、私は私がなりたい私になるべきだ。周りの男性が全員が恋愛対象外になったとたん、私は本当に私らしくなったと思います。

改めて、自分がどういう人間になりたいのかを考えると、社会の中で誰かを助け、医者になってリーダーシップを取りたい、同時に幸せなパートナーシップを築き、家庭を築きたいとも思いました。

しかし、キャリアの面を考えると、私がいた北海道大学の医学部では、女子学生が圧倒的に少ない。女性の先生も少なく、女性のロールモデルをほとんど見ずに医学部生活を送りました。

さらに同期の男子学生たちは、「日本の少子化を止めるために、女性は外で働かないほうがいい」「医者は力仕事だから、男性のほうが向いている」といった言を日常茶飯事に口にします。

医療現場が力仕事なら、なぜ看護師に女性が多いのかは疑問です。さらに今、3人子供を産んでわかったのは、身体的に負担がかかるのは家事育児だということです。なのになぜ、「力仕事だから家事育児を男がやったほうがいい」とならないのか。

しかし彼らは自らの矛盾にはなんの疑問を持たず、同級生で医者になることが確実な私の目の前でも平気でそんな発言をする。それが「普通」の感覚でした。このような環境の中で、女性の私がリーダーシップを発揮できるとは思えませんでした。