身体を守る腸の免疫システム

あまり考えたくはないが、人間は実質的には脚のついた精巧な消化管だ。人間の特質のほとんどは、食料からエネルギーをより効率的に得るために進化してきた。

この長く曲がりくねった管は、腸と呼ばれることもあれば、消化管と呼ばれることもある。

消化管に住みついている細菌のほとんどは結腸(大腸)にいる。そして、結腸の内側を覆っている細胞には、2つの重要な仕事が割り当てられている。1つは、病原体や細菌が血液中に漏れないように封鎖すること。もう1つは、小腸で吸収しきれなかった水分や栄養素を吸収することだ。この物理的なバリアは、身体にもともと装備されている免疫システムとしても働いている。

大腸
写真=iStock.com/ChrisChrisW
※写真はイメージです

腸管のバリア、つまり上皮細胞は、城の跳ね橋のように開いたり閉じたりする密着結合(タイトジャンクション)によって結びついている。ありがたいことに、この細胞はたいていは閉じている。だが、たとえば小腸に危険な細菌が入りこむと、この結合が緩んで、水分と免疫細胞が腸管の内腔に入りこんでしまうことがある。この場合、たいていはトラブルメーカーを洗い流すために下痢が起きる。これは、急性の感染症にかかったときの重要な防御反応だ。

あいにく、現代人の生活のある種の要因によっても腸のバリアが緩んで「逆行輸送」、つまり腸の内容物が内壁深くに運ばれてしまうことがある。これは重大な結果をもたらし、自己免疫性疾患につながる「分子擬態」を誘発するかもしれない。

腸の内壁を損傷させる2つのタンパク質

腸の内壁のバリアを緩ませる可能性があるものの1つは、グルテンだ。

これは小麦やライ麦、大麦、そしてたくさんの加工食品に含まれているタンパク質だ。グルテンは、私たちが食べるタンパク質のなかでも独特で、たとえば鶏の胸肉を食べると摂取できるタンパク質とは違い、人間はこのグルテンを完全に消化しきれない。たいていのタンパク質は、消化されるときに、その構成成分であるアミノ酸に分解されるが、グルテンはその前の段階の「ペプチド」という大きな断片までにしか分解されない。この断片は腸の緩んだバリアを刺激し、細菌性の侵入者に対する反応に似た免疫システムの反応を誘発するといわれている。

この反応の中心にいるのは、「ゾヌリン」というもう1つのタンパク質だ。

これは腸にグルテンがあると必ずつくられる。ゾヌリンは、細胞の門番のように働き、上皮細胞のタイトジャンクションを制御している。そしてゾヌリンがあるところには、透過性がある(このゾヌリンという腸の透過性の重要な門番を発見したのは、マサチューセッツ総合病院セリアック病研究センターの創設者で、セリアック病の権威としても世界的に有名なアレッシオ・ファサーノ博士だ)。この「腸透過性亢進」は誰にでも生じる可能性があるが、セリアック病の人はとりわけその傾向が強い。セリアック病にかかっている人の場合、グルテンを摂取すると過剰な自己免疫反応が起きて、やがて小腸の内壁が損傷してしまう。