認知症を防ぐ方法はあるのか。健康・科学専門のジャーナリストであるマックス・ルガヴェア氏と医師のポール・グレワル氏は「インスリン値が慢性的に高い人は、認知症を引き起こす可能性が高い。脳を守るには、炭水化物の占める割合の低い食事をとることが大切だ」という――。

※本稿は、マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

少し欠けている炭水化物(米、ラーメン、パン、パスタ、ハンバーガー)
写真=iStock.com/zepp1969
※写真はイメージです

インスリン濃度が高いと認知機能が低下する

科学は常に進歩している。特に脳科学はその傾向が強い。

認知症のうち最も一般的なアルツハイマー病についてわかっていることの90パーセントは、ここ15年ほどのあいだで発見されたものだ。認知症予防(もちろん認知機能の最適化も)の科学は新しい。そして明らかに、科学的な「決着」はついていない。だが決着がつくまで待つのは、何十年とまでいかなくとも、何年ものあいだ何もせずに手をこまねいているのと同じだ。

認知症という病気は、症状が出始める30年前から始まっているという(もっと早いことを示すデータもある)。認知症を発症するずっと前から、それを引き起こす要因が、あなたの認知機能のメカニズムに影響をおよぼしている可能性が高いのだ。

ブドウ糖を取り込んで筋肉や脂肪、肝臓の細胞に送っているインスリンというホルモンがある。脳ではインスリンはシグナリング分子となり、シナプス可塑性や長期記憶の保管、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の働きに影響をおよぼしている。また、海馬(脳内の記憶を処理する部位)のようなエネルギーをやたらと欲しがる部位の細胞が、ブドウ糖を取り込むのに手を貸している。

生化学的な信号が騒々しいと、細胞はそれを聞くための受容体を減らすことで自らを守ろうとする。脳の細胞のインスリンを「聞く」力が減ると、実行機能や記憶を蓄える力、集中力、報酬を感知する力、ポジティブな気分など、さまざまな認知機能に悪い影響が及ぶ可能性がある。

2型糖尿病が認知機能の低下を引き起こすことを示す論文はかなり多いが、糖尿病ではない人でもインスリン抵抗性(インスリンに対する反応が鈍くなり、血糖値を正常な範囲に下げることができない状態)があると、実行機能や宣言記憶の機能を低下させることを示す論文もある。

宣言記憶というのは、たとえば、私たちが好ましいイメージの誰かを思い浮かべたときによみがえる記憶だ(私たちはみんな、その人になりたいと思う)。非糖尿病患者の知力を調べたサウスカロライナ医科大学の研究によれば、認知的に「健康」な被験者でもインスリン濃度が高いと、ベースライン時(実験が最初に行われた時点)に認知機能が低下していただけでなく、その6年後の調査で大幅な低下が見られたという。