親が高卒で働くことを許してくれなかったハズレガチャ

<解説>

カズシゲは、そもそも大学に行くつもりはありませんでした。真面目な性格で勤勉でしたが、特に勉強が好きではなく、これといった夢や目標もなかったので、高卒後は地元の中小企業で地道に働きながら、早めに自分の家族を作って、人生を満喫して、安定した老後を迎えたいと思っていました。

しかし、ユカと同様に親思いのカズシゲは、「大学に行ってほしい」という親の期待を無視することができませんでした。仕方なく入学した大学では、当然ながらやる気も出ず、気がつけば就活です。行くつもりがなかった大学に行かされたことを、カズシゲは生涯にわたって恨むことになるかもしれません。

もしカズシゲの両親が、「高卒で働きたいなら一度そうしてみなさい」と言ってくれていたら、カズシゲは少なくとも、たとえ社会人1年目がコロナ禍であっても、働く気力は保てたでしょう。親が子どもに進路を押しつけているところが、ハズレガチャに相当します。

ケース5、古い体質の地元が嫌で飛び出した万年係長のヒロシ

ヒロシはユカとカズシゲの父です。現在52歳で中小企業に勤めています。ヒロシは封建的な地域の三男として生まれましたが、「本家とか分家」で騒ぐ親戚や親兄弟が嫌でたまりませんでした。ヒロシの兄が継いだ家業を手伝えと言われたことに反発し、高校を出ると家を離れて就職することにしました。自分の生まれ育った地域社会が嫌いだったので、できるだけ遠くの都市部にある会社を探し、業界ではそこそこのポジションの今の会社に就職しました。

就職してからはガムシャラに働いて40歳のときに係長に昇進しましたが、陰で「万年係長」と呼ばれていることを知っています。ヒロシは自分が出世できない理由は、いまだに抜けない訛りと、何より高卒という学歴のせいだと思っています。給料は決して多くはなく、専業主婦の妻と子ども二人の生活は楽ではありません。15年前に購入した家のローンはまだあと20年残っています。

定年退職してから年金がもらえるまでには5年あるので再雇用してもらうことを考えていますが、嘱託の給料でローンを払っていけるか不安です。息子の就職活動は芳しくないようです。このまま息子が無職のまま家にいつき、自分が80歳になったときに50歳の息子を養っている姿を想像すると気が滅入ります。

中年のビジネスマン
写真=iStock.com/metamorworks
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