なぜコロナ禍に「開店ラッシュ」を進めたのか
会社を買い取ってからの青木さんの行動は早い。まず念願だった出店を加速させた。世間はコロナ禍真っただ中だった2020年からの2年間で4店舗をオープンしている。
なぜこれほどまでの開店ラッシュが可能だったのか。
ひとつは、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」は他のパティスリーとは異なり、来店する価値を重視したスイーツ店だったからだ。
青木さんのお店は、スイーツ自体に価値があるにもかかわらず、店舗まで行かないと買えない。その店舗も都心の一等地にあり、店舗数も限られているためプレミア感がある。実際、2020年4月の1回目の緊急事態宣言でも、5月末に解除されると、すぐに売り上げが戻ったそうだ。
さらに、異業種のシュウ ウエムラや伊藤園などとコラボした商品が通販で好調だった。こうして資金面で余力があったため、異例の開店ラッシュを進めることができたのだ。
青木さんは「出店場所は自分の行きたい街を選んだ」という。出店計画よりも先に自分の興味関心を優先させたというのだ。
「そうした街だからこそ、実際にそこに身を置くとインスピレーションが湧き、ビジネスに発展していくんです」(青木さん)
経営者兼シェフパティシエだからできる即時決断、即時行動といえるが、それは長野に行ったときも同じだった。
衝撃的だった長野県のリンゴ
実は青木さんが現在、活動の中心に据えているのは、パリでも東京でもなく、長野県だ。
きっかけは、社員との旅行だった。コロナ禍で店を閉めている時間に、なんとなく向かったという。
「それまで僕は日本や長野県に強い興味があったわけではありません。ただ、車で県内を走っていると、リンゴや杏といった果樹農園がたくさんある。よく見たら、地面に落ちている果物があったんです。気になって農園の方に断って一口食べさせてもらったら、その味はもう衝撃的でした」