世界一の食材はどこに集まるか

30年近くフランスを拠点にしていた青木さんは、それまで世界一のフルーツが集まるのはパリだと確信していた。だが、それが覆されたという。

「杏は甘味の中にしっかりとした酸味があって、ヨーロッパでもなかなか巡りあえないクオリティーでした。リンゴもレベルが高い。僕は、クルミはモンブランの麓にあるグルノーブル産が世界一と思っていたんですが、同じレベルのモノが長野県にあった。もう驚きでした。長野県、今まで知らなくてごめん、と思いましたよ」(青木さん)

高いレベルの食材の一部は出荷されることなく、あちこちの農園に落ちている。その状況を見た青木さんは、そうした果物を使った商品開発を思いつく。

「たくさんの魅力があるのに、地元の人でさえそれに気付いていない。みんなが興味を持たないからといって、何もしないのはすごくもったいない」

ただの旅行で訪れただけなのに、プランはもうできているのが青木さんだ。長野の果物を使ったコンフィチュール(果物を砂糖と一緒に煮詰めたフランスで食されるジャム)を作ることを決めたのだ。早々に、果物を集めておく食糧庫を軽井沢で見つけた。

長野に拠点をおいたワケ

長野県は青木さんと深いつながりのある土地だった。千葉県市川市に日出学園という学校がある。同校を設立したのは、青木氏の高祖父にあたる青木要吉氏だ。そうした縁もあり、同校が軽井沢に持つ山荘に子どもの頃からよく来ていた。ただ当時は、自分が軽井沢でビジネスをやることになるとは夢にも思っていない。

「リンゴにしろ、ブドウにしろ、長野県には高い品質の果物がたくさんありました。日本には珍しく、土壌が酸性ではなく中性であることも関係しているでしょう。アルプスから運ばれた栄養を木々がしっかりと吸収しているからこそ、芳醇ほうじゅんな果実が出来上がるのだと思います」

食糧庫だけでは手狭になり、同じ軽井沢で別の物件を購入した。元はフレンチレストランだったので、水道やガスなど施設が揃っていたので整備し、2021年7月に「アトリエ軽井沢店」として開店した。

「ジャムを軽井沢で製造するのはいいのですが、それを東京に持っていって販売するのは普通でつまらないと思ったんです」

いまでは20種類以上あるコンフィチュール
撮影=田中伸弥
現在では20種類以上もあるコンフィチュール