ヨーロッパでも「孫育て」でメンタルヘルスが悪化

ヨーロッパにおける孫育ての影響に関して、イタリアのパドバ大学のジョルジオ・ブルネッロ教授らが分析しています(*3)。彼らの分析の結果、ヨーロッパでは孫の子育て時間が長くなるほど、祖父や祖母のメンタルヘルスが悪化することがわかりました。

興味深いのはその男女差です。月の孫の子育て時間が10時間増加した場合、祖母のメンタルヘルスが大きく悪化する確率が3.2~3.3パーセントポイント上昇し、祖父では5.4~6.1パーセントポイント上昇していました。

眼鏡をはずし、疲れた目を気にしているシニア男性
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです

この結果が示すように、ヨーロッパでは孫育てのマイナスの影響が祖父の方でより大きくなっています。この結果は日本と異なっているわけですが、背景には何があるのでしょうか。

この点に関してブルネッロ教授らは、ヨーロッパのいくつかの地域では祖父よりも祖母が中心になって育児支援を行う傾向があり、祖母にとってはそもそも「孫育て」に対する抵抗が小さいが、祖父は慣れない中で育児支援を行うため、マイナスの影響が大きいのではないか、と指摘しています。

アメリカ、イギリス、中国では「孫育て」で幸福度が上昇

ヨーロッパでは「孫育て」のマイナスの影響が見られますが、アメリカ、イギリス、中国では逆にプラスの影響が確認されました。

アメリカの研究では、一人で過ごす時間と比較して、孫と過ごす時間が増えるほど幸福度が高まるだけでなく、人生の意義を実感しやすいことがわかっています(*4)

また、イギリスの研究では、孫がいる場合ほど生活全般の満足度が高まると指摘しています(*5)

さらに、中国の研究では、孫の面倒を見ている場合ほど、抑うつ症状が改善するだけでなく、生活全般の満足度が向上することがわかっています。驚くべきことに、孫と過ごす時間や面倒を見る孫の数が増えるほど、プラスの影響が高まる傾向にありました(*6)。孫の存在は、日本よりも血縁を重視する中国社会の中では、影響度が大きいと言えるでしょう。

以上の分析例からもわかるとおり、国によって孫との関わり合いがもたらす影響に違いがあります。この背景には、各国の性別役割分業意識や女性の社会進出状況に加え、社会の中で子どもという存在がどのように捉えられているのかという点が影響していると考えられます。