蔡英文の後継者vs反蔡英文vs中道派

頼清徳氏(民進党)

蔡英文総統の後継者。日米欧との協調路線が維持されるほか、台南市長時代、「日本祭り」を開催したり、「将来、台湾と日本は防衛対話の仕組みを作り、互いの防衛力の協力を一層進められるようにすべき」と発言したりするなど日本への働きかけが強まると予想される。

ただ、2018年、民進党が統一地方選挙で大敗したあと蔡英文総統を見限った過去があり、国民の支持が得られるか疑問。中国が台湾の世論分断に利用する可能性もある。

侯友宜氏(国民党)

中国イデオロギーが強い「深藍」と呼ばれる国民党のコアな支持者とは一線を画し、その姿勢が民進党で「反蔡英文」を唱える人々の受け皿になっている。鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏らの支援も受ける。新北市議会では「中国が主張する1国2制度は認めない」と明言している。その政治信条は「好好做事」(物事を丸く収める)だが、この手法が、中国に通用するかどうかは微妙だ。

柯文哲氏(台湾民衆党)

「民進党は中国と対話できておらず国民党は従順すぎる」という考え方。6月5日、早稲田大学で行った講演では、「政治的な交流は難しいとしても、経済・文化面での中国との交流は推進するべき」と述べた。対中政策では中道派だが、台湾民衆党の基礎票は、民進党や国民党と比べて少なく、勝利する可能性は極めて低い。

五星紅旗の中国と、星条旗の米国に挟まれた台湾
写真=iStock.com/HUNG CHIN LIU
※写真はイメージです

国民党が勝っても台湾有事のリスクは消えない

一般的には、民進党の頼清徳氏が勝てば日米にプラス、国民党の侯友宜氏が勝てば中国にプラスという構図だが、侯友宜氏は、馬英九前総統のような「親中派」色は強くない。それだけに、今後、選挙戦が佳境を迎える中で、中台関係で踏み込んだ発言をすれば、それが有事のトリガー(引き金)になるリスクもある。

台湾有事が起きれば、中国はほぼ間違いなく「台湾省」の一部と見なす尖閣諸島の併合にも乗り出す。沖縄本島のアメリカ軍基地や南西諸島に点在する自衛隊駐屯地も標的になる。

これまでに挙げたリスクの中には、ミサイル防衛の強化や避難計画の策定など日本政府や関係自治体の努力で比較的すぐ解消できるものもあるが、シェルター建設に向けた住民の合意形成や用地確保など一朝一夕にはいかないものもある。ましてや、アメリカや台湾の政治のリーダーを選ぶ選挙は結果を見守るほかない。

ただ、いずれのリスクにも気持ちの備えはできる。国内外で予想されるリスクの全てが私たちの生活に響いてくる問題ととらえていただけたら幸いに思う。

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