心的ストレスで夏から秋までの記憶がない

デザインの仕事は時間で測ることが難しく、徹夜をして仕上げることもよくあります。突き詰めることは重要ですが、費用対効果のない領域にまでひたすら時間を使います。

以前ある案件を進行していました。某キャラクターのイラストを使用した広告で、規模も大きいため気を抜くことは許されません。

僕は事務所に泊まり込んで延々とイラストの制作を進めました。神は細部に宿るといいますが、この某案件を通してその心意気を習得することができました。そのくらいこの仕事は心に刻まれています。

その反面、心的ストレスが大きすぎたのか、ある期間の夏から秋まで記憶がほとんど残っていません。過剰なストレスを感じると防衛反応が働き、記憶を失うのだそうです。そのため、後から制作物を見返して、その時の思い出を振り返るようにしています。

暗い部屋に座っている男性
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです

上司からOKが出ず、「脳死状態」で作業

その案件はかなり過酷でした。ロケ撮影も過酷ですが、事務所にこもりっきりで作業するのもなかなかにメンタルにきます。

精神をすり減らしながら、細かなディティールの検証を繰り返します。自分の中でぎりぎりまで突き詰めたものができた段階で、自信をもって上司に確認してもらいます。

しかし、上司からOKが出ません。上司は別の案件で忙しいため、この案件は僕に任せてくれていました。

何度も何度も修正を重ねていきます。しかし一向にOKが出ることはなく、その日は眠ることなく朝を迎えました。

眠気は限界に達していました。何度もトイレの洗面所で顔を洗い、眠気を誤魔化しながら修正作業を繰り返します。

眠くて意識が飛びそうになりますが、耐えつづけます。一睡もせずに作業をしていると、思考力も低下し、まともな判断ができなくなります。そして、何が正しいのかわからず延々と無駄な作業を繰り返します。おそらく上司も寝ずに僕のデザインを確認していたので、お互い「脳死状態」でデザインと確認をしていたのでしょう。それでは終わるはずもありません。