※本稿は、ながさき一生『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
素材の味を楽しむ刺身は鮮度が命
刺身と寿司は、両方とも生魚が使われる料理としてよく比較されます。
その違いを簡単に表すと、刺身は「魚」単体であり、寿司は「魚」+「シャリ」だということです。単純明快の話に聞こえますが、この点が「魚」と「寿司」の世界観の違いを作り出しています。
まず、刺身は小さく切られた魚の身をそのまま食べる料理です。非常にシンプルで、素材の味をダイレクトに楽しむ料理でもあります。
魚の味にとって、鮮度は重要な要素となりますが、鮮度は魚が獲れてからどんどん落ちていきます。すると産地と流通先では少なからず魚の味に差が出てきます。
この差は、手の凝った料理になる際にはさほど気になりませんが、素材の味をダイレクトに味わう刺身では、かなり気になる要素となります。特に鮮度の良さを楽しむ魚種であれば、刺身は産地で食べた方が絶対に美味しいといえるでしょう。
寿司は産地よりむしろ流通先で食べるべき
一方、寿司は魚の肉を平たく切った上で酢飯であるシャリと合わせて食べる料理です。
魚の素材も大事になってきますが、シャリもあるため刺身ほどではありません。すると産地と流通先での鮮度による味の差は、刺身よりは生じてきません。つまり寿司は、刺身と比べると、流通先でも魚を美味しく食べられる方法といえるのです。
そして、時間が経って生じてくる生臭さの成分は、トリメチルアミンというアルカリ性の物質です。一方でシャリは、酢飯のため酸性です。そのため、シャリは生臭さの成分を中和して抑えてくれる役目を果たします。これが、シャリの存在意義でもあります。
また、獲れてから時間が経って起こることは、鮮度劣化という悪いことだけではありません。時間が経つと、魚のタンパク質が分解され、うま味成分に変わっていく「熟成」が起きます。
つまり、魚は流通先では鮮度が低下し生臭さは増える一方で、熟成が進みうま味は増えるのです。シャリは、この悪い部分を消し去り、良い部分を残してくれます。
以上をまとめると、寿司とは、産地よりも、むしろ流通先で食べることに適した料理といえるのです。