主観的印象について議論しても意味がない
顧客の多くが、ある製品をあなたの意図とは違う方法で使っているのを目にしたら、それはあなたの意図を見直す必要がある証拠だ。パチェコは、トレッドミルに目立つ安全ハンドルをつけたら、ユーザーの望む安全性を提供できるのではと考えた。
もしハンドルバーが、目の前の手が届くところに――だが走る邪魔にならない角度で――ついていたら、ランナーは緊張やストレスを感じずに、ずっとそれにつかまって走っていられるはずだ。不安定な姿勢でコンソールにしがみつくより安全なだけでなく、慎重すぎて普通のトレッドミルには乗らないような新しいユーザーを引きつけることもできるだろう。
パチェコは、この専用ハンドルバーのアイデアをサイベックスに持ち帰ったが、まったく受け入れてはもらえなかった。製造コストにハンドルバー分の40ドル以上を加算するまでもなく、利益が十分に低かったからだ。さらに、ハンドルバーは見た目が悪い。サイベックスのモデルは、市場に出まわっているほかのすべてのトレッドミルのなかで浮いてしまうだろう。
「このプレゼンにはいいところがまったくない」と、R&Dの責任者はパチェコにいった。「何か別の提案をしてくれ」パチェコは、顧客の主観的印象に対する自分たちの主観的印象について議論しても意味がないと思い、その代わりにdスクールで学んだ断片的な手法を使ってみようと決めた。実験は、どんなパワーポイントのスライドよりも彼のコンセプトの有用性を効果的に証明してくれるはずだ。
否定的な意見も実験結果の前にはなすすべなし
パチェコは近所にあるホテルのジムに行くと、そのジムに置かれているサイベックスのトレッドミルのうちの2台に、試作品のハンドルバーをつける許可を求めた。ホテルの支配人は、その潜在的な用途を即座に理解した。訴訟を避けるためなら、ハンドルの見た目の悪さなど誰が気にするだろうか? 許可を得たパチェコは、急ごしらえのハンドルバーを、ホテルにある10台のトレッドミルのうちの2台に取りつけて、様子を観察することにした。
毎朝、ジムのゲストはどのトレッドミルに乗るかで意思表示をした。試作品のハンドルバーをつけたトレッドミルが空いているときは、10人中8人が、ハンドルバーのついていない8台よりもこの2台のほうを選んだ。その理由を尋ねると、明確な答えが返ってきた。「こっちのほうが安全に見えたし、実際にそうだったから」。
パチェコはデータを手に、この変更を実施するようサイベックスを説得した。年末までに、サイベックスのトレッドミル事業は、この安全ハンドルによって、2年連続で20パーセント成長を達成した。