慣れないトレーニング装置にはリスクが伴う

たいていのジムでは、監視されていない大人は、とくに年配で鍛えていない人の場合、いままで使ったことのないメーカーのトレッドミルに乗ると、動きの速いベルトコンベヤーの上をがむしゃらに走る傾向がある。それは大惨事を招きかねない行動だ。

インターネットには、トレッドミルで走っているときに、うつぶせに倒れたり、それ以外のけがをしたりする人たちの映像があふれている。とくにスピードが速いときは、わき見をするだけでもバランスを崩してしまう(ありがたいことに、ジムではあらゆる場所にテレビがついている)。

一方で、ペロトンの問題が示すように、トレッドミルのデザインに何らかの変更を加えると、予期せぬ新しい危険を招くリスクが大いに高まる。慣れないトレーニング装置を使うときに、使い方を尋ねたり、指示を仰いだりする人は少ない。装置の一部を変更する際に、最初に頭に浮かぶ疑問は「もし誰かが、適切な監視がついていない状態で間違った使い方をしたら、最悪の場合どんなことが起こりうるだろうか?」というものだ。

ランナーは必死でコンソールにしがみついていた

パチェコは、トレッドミルがもたらす危険を知っていた。実際、多くの潜在的な利用者がトレッドミルを避けていたのは、そのリスクを認識しているからだ。トレッドミルの使い方を誤ってけがをする無知な新米ユーザーがいるために、はるかに多くの人が恐れをなして、試してみようとさえしないのだ。

こうした人たちにトレッドミルを進んで使ってもらうには、サイベックスはどんなことをすればいいのだろうか? その質問に答えることが、CEOが求める需要の喚起につながるかもしれない。

このことを念頭に、パチェコはさまざまなジムで人がサイベックスのトレッドミルを使う様子を観察した。目の前で必死に頑張っている利用者たちに深く共感していなかったら、その姿を滑稽に思ったに違いない。自信満々に走っている人たちも、そのほとんどが、結局は必死にコンソールにしがみついていたからだ。

コンソールは運動中の支えになるためではなく、制御盤と持ち物の保管場所として設計されていた。サイベックスは、人が舗道を走るときとまったく同じように、腕を自由に振って走ることを想定していたのだ。だが相手の身になって観察していると、利用者はバランスを失うのを恐れているのがわかった。不自然な角度で運動の妨げになるにもかかわらず、ランナーたちは必死でコンソールにしがみついていたのだ。