商品をつくる前に売ってみる
私たちのアクセラレーター・プログラムにおいて、ビークマンは、調査に頼らなくても、実験によって各ボックスの有用性を測定できることに気がついた。そしてこのテストを実施するために、頑丈な木箱(とそれ用のバール)を試作品として準備した。それから、ボックスのコンセプトを6つ考案した。そのうちの3つは、アルコールの出荷がとてつもなく難しいことがわかって除外し、残った3つの箱は大規模小売店で購入できた菓子やキャンディーがメインのものになった。
ビークマンは、もしその箱とブランドが、どこでも買えるアイテムを詰めただけで売れるなら、簡単には入手できない高級ギフトならばさらに成功するはずだと考えていた。時間をおいて、アイデアの推進力を失うのは避けたかった。製品のあらゆる面が完璧になるのを待ってから発売したのでは遅すぎる。
ビークマンは、箱のコンセプトを決めると、各アイテムを1つずつ購入し、同じ試作品の箱の前に3組のアイテムを並べて、1日かけて写真を撮影した。倉庫もサプライヤーもディストリビューターも、予備の箱さえもなかったが、写真を撮影して最初のカタログを作成した。
そして、間に合わせのウェブサイトをつくると、「マン・クレイツ」と名前をつけて、そこに製品の写真をアップロードした。それぞれの箱には、採算がとれる値段をつけた。それから、トラフィックをサイトに呼びこむために、フェイスブックに広告を載せた。
「なぜ注文してくれたのか」をヒアリングする
徐々にサイトへの訪問者が現れはじめた。誰かがまだ実在しない箱を購入するたびに、ビークマンは即座にその取引を無効にした。それから顧客に電話をかけて、会社がまだたった1人で運営しているスタートアップであることを説明したうえで、製品やサイトや購入プロセスについて意見を求めた。
ビークマンが電話した相手は、最初はいらだちを感じたに違いないが、このめったにできない経験を面白がった。ほとんどが技術系のスタートアップとかかわったことがなく、あとで重要になるかもしれないフィードバックを進んで共有してくれたのだ。ビークマンは電話を終える際に、将来の購入時に適用できる50パーセント割引を提供した。
もし調査が需要を測定する効果的な方法でないのなら、なぜビークマンはこの段階でフィードバックを集めたのか、と不思議に思う人もいるかもしれない。この場合は、相手のマン・クレイツを購入しようという意思を正当に確認したのだ。彼らは購入ボタンをクリックして、クレジットカード情報を入力した。その時点で、そのインプットは非常に重要なものとなった。これらの人たちは本当の意味で、ビークマンの最初の顧客だった。
ほとんどのリーダーは、顧客がまだ購入できない製品を売り出して、相手を失望させるなど、リスクが高すぎて試すわけにはいかないと考える。だが、それは違う。ビークマンのデータベースに残っている、初期の「失望させられた」顧客を数年後に追跡してみると、その多くがいまも顧客のままだとわかったのだ。この試作品のサイトは、売れるか売れないかわからない品で倉庫がいっぱいになる前に仮説を検証できる、理想的な研究所の役割を果たしつづけた。