これまでも「想像力」を育てる試みは行われていた
もちろん、新学習指導要領の「問題発見、解決能力」「提案力」といった部分をより強化しなければならない、という方向性は間違っていないと思います。そして問題発見や、提案をするための前提となるのが、「想像力」です。
ただ、そこはこれまでも授業の中で色々な試みが行われてきたのです。たとえば『羅生門』のラストは、「下人の行方は、誰も知らない」となっていますが、「その先がどうなるか、続きを考えてみましょう」とか、森鴎外の『高瀬舟』を読んで、この時代から安楽死が問題になっていたんだ――、どうすべきか自分なりに考える、といった授業も可能でしょう。あるいは新聞を題材に、実用的な日本語を読解し、論点を見出すような授業も実践されています。
しかし、そうした問題発見・提案型の取り組みが今ひとつ目立たなかったのは、主観的な部分が含まれるので採点がしにくく、入試には馴染みにくかったからです。
架空の高校の「生徒会の規約」を読み解く例題
2021年から、大学入試センター試験に代わり、「大学入学共通テスト」がスタートしました。国語の出題方法も大きく変わると見られていましたが、小説作品が2年連続で出題されたことは歓迎すべきでしょう。しかし本番に先立って行われたプレテスト(試行調査)を見る限り、実用的な志向が強く打ち出されています。たとえば架空の高校の生徒会の規約を読み解き、その規約を改めようとする生徒と教師の会話をもとに、記述式の解答をする、といった例題が出されました。
では、こうした問題作成の方向性は、論理的思考力を測り、実践的な日本語運用能力を高めることにつながっていくのでしょうか?
試験というのは、それが何の力を測るためか、ということ以上に、その試験に向けてどんな準備をすればよいかが明確になっていることが必要です。私は大学の新入生に毎年聞いていますが、彼らは全員これまでのセンター試験はよくできていて、それに向けてどんな対策が必要かは分かっていた、と答えます。しかし、共通テストの問題点は、それに向けて準備をするのが難しいということです。また、「現代国語」しか教えたことのない国語教員の間では、「論理国語」に対する当惑が広がっている、というのが本当のところではないでしょうか。