話が上手な人は何が違うのか。明治大学教授の齋藤孝さんは「論理的な話し方をすることが大切だ。長すぎる文章やあいまい表現には注意したほうがいい」という――。

※本稿は、齋藤孝『格上の日本語力 言いたいことが一度で伝わる論理力』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

8時を指す目覚まし時計と、それを指さす女性の手元
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聞き手が内容をつかめない話し方

日本語は基本的に述語が文末にきます。その構造上、話を最後まで聞かないと、何を言いたいのかがわかりにくい場合がしょっちゅうあります。たとえば、

「高橋さんは昨日、大学時代の同期で、いまもときどき情報交換を兼ねて一緒に飲み歩いては旧交を温めている鈴木さんと、神田の昔なじみの居酒屋で飲もうと約束して楽しみにしていたけれど、鈴木さんの仕事の都合でドタキャンされたそうで、だから今日は朝から元気がないんです」

というように、最後まで聞いて初めて、「ああ、高橋さんは鈴木さんと飲めなかったから元気がないのか。ドタキャンされたのはお気の毒だったね」とわかります。こういう話を聞かされると、ちょっとイラッとします。

なかには、話をいいかげんに聞いて、「何だ、高橋さんが飲んだ話か」とか、「高橋さん、二日酔いか。どうりで元気がないと思った」などと早合点する人もいるでしょう。

これでは論理的な話し方とは言えません。主語と述語があまりにも離れているために、聞いている人が話の内容をつかめず、イライラしてしまうのです。

この場合の言いたいこととは、「高橋さんが元気のない理由」です。では、どう言えばいいのか。

主語と述語をなるべく近づけて話す

一番のポイントは、主語と述語をなるべく近づけること。まず「高橋さんが今朝、元気がないのは、昨日、飲み会をドタキャンされたからなんです」と言う。

次に「相手は鈴木さんという大学時代の同期で、いまもときどき一緒に飲み歩いては旧交を温めているそうです」と、相手の情報を伝える。

そして「実は昨日も昔なじみの居酒屋で飲む約束をしていて、高橋さんは楽しみにしていたんです」と、元気のない理由の補足説明をする。

こういう展開だと、話がスッキリして、相手に正確に伝わるでしょう。

日本語はその気になれば、主語と述語の間にいくらでも情報を詰め込むことができます。人や物を表す名詞の前に、それを説明するフレーズを長々とつけたり、文を切らずに接続助詞(ので、から、けれど、のに……)でつなげたり、「名詞+助詞(が、の、を、に、へ……)」をいくつも並べたりすることが可能だからです。

それだけでも内容があいまいになるのに、頭のなかで考えが整理されていない場合はもっとひどいことになります。長々と話す、あるいは書くうちに、いつの間にか主語が変わったり、述語が消えたり、全然違う話題になっていたりと、まさに非論理的な話し方・書き方に陥ってしまうのです。

そうならないためには、「主語と述語をなるべく近づけて話す」ことを心がけてください。そのうえで、説明したいことの優先順位をつけて、短いセンテンスでつなげるといいでしょう。この「優先順位」が論理を形成するのに役立ちます。